知っていて損はない！ZEH-M（ゼッチ・マンション）とは？
近年、マンションの設計現場で「ZEH-M（ゼッチ・マンション）」という言葉を耳にする機会が増えています。
大手デベロッパーを中心に、省エネ性能を高めたZEH仕様の集合住宅が主流になりつつあり、今後は設計者・施工者の双方にとって理解が必須のテーマです。
その背景には、国が掲げる2050年カーボンニュートラルの実現があります。住宅や建築分野でのエネルギー削減は、国の脱炭素戦略の中核であり、ZEHの普及促進が重要な政策目標となっています。
本記事では、ZEH-Mの定義から基準値、設計実務における留意点までをわかりやすく整理し、建築主との打合せや設計提案で即使える知識を解説します。
目次
ZEH-Mとは？｜集合住宅における省エネ設計の新基準
ZEH-Mの「M」は「Mansion（マンション）」の略で、集合住宅全体を単位として省エネ性能を評価します。
つまり、一棟全体の外皮性能（断熱性能）と一次エネルギー消費削減率がZEH水準を満たした場合、その建物がZEH-Mとして認定されます。
個別住戸単位ではなく、住棟全体での評価が基本となるため、設計段階では共用部を含めた一次エネルギー計算が求められます。
ZEH-Mは単なる高断熱仕様ではなく、建築設計・設備設計・施工管理が一体で取り組む総合的な省エネ設計と言えます。
ZEH-Mで求められる外皮性能と一次エネルギー削減率
外皮性能（UA値・ηAC値）
ZEH-Mでは、すべての住戸で以下の基準を満たす必要があります。
- 外皮平均熱貫流率（UA値）：0.6以下
- 平均日射熱取得率（ηAC値）：2.8以下
これらは、断熱性能と日射遮蔽性能のバランスを評価する指標であり、特に夏季の冷房負荷低減にも大きく関わります。
また、住宅性能表示制度における「断熱等性能等級」では等級5以上が該当します。設計段階でサッシの熱貫流率や外壁断熱材の仕様選定を慎重に行うことが求められます。
一次エネルギー削減率
ZEH-Mでは、住棟全体の一次エネルギー削減率が**20％以上（再エネを含まない）**であることが基準です。
外皮性能と異なり、個々の住戸単位ではなく、全住戸と共用部の合計で評価されます。
再生可能エネルギーを活用して削減率をさらに高めれば、より上位の区分（ZEH-M、Nearly ZEH-Mなど）を取得できます。
この削減率が高いほど、高効率な設備機器の採用・断熱性能の強化・エネルギー管理の最適化が図られていることを意味します。設計段階でのエネルギーシミュレーションの精度が、省エネ性能の証明に直結します。
ZEH-Mの4つの区分と適用階層
ZEH-Mは、創エネルギー（主に太陽光発電）をどの程度導入しているかによって、次の4つに分類されます。
① ZEH-M（ゼッチマンション）
再生可能エネルギーを含む一次エネルギー削減率が100％以上。
建物全体で消費するエネルギーを創出エネルギーでほぼ相殺できる水準です。
主に3階建て程度までの低層マンションで達成が想定されています。
② Nearly ZEH-M（ニアリーゼッチマンション）
削減率75％以上。再エネ活用が限定的でも、高効率設備と外皮性能で高い省エネ性を実現。
こちらも3階建て程度までが主な対象です。
③ ZEH-M Ready（ゼッチマンション・レディ）
削減率50％以上。
構造的・設置面的制約がある4〜5階建てマンションで現実的な目標値です。
④ ZEH-M Oriented（ゼッチマンション・オリエンテッド）
削減率20％以上（再エネ導入の有無は問わない）。
6階建て以上の高層マンションでの標準的な到達目標となります。
これらの水準は現状、法的拘束力を持たない任意指標ですが、今後の省エネ基準義務化の流れを考えると、設計者が自発的に対応を進めるべき分野といえます。
設計実務におけるポイント｜再エネ導入と設備設計の最適化
マンションでの再生可能エネルギー導入は、太陽光発電システムが主流です。
屋上スペースや日射条件を考慮しながら、創エネ量とコストのバランスを取ることが重要になります。
ただし、他の再エネ設備（地中熱、燃料電池など）は設置が難しく、現場条件により採用は限定的です。
また、共用部の照明・給湯・換気などの**BEMS（Building Energy Management System）**による運用最適化も、一次エネルギー削減率を高める有効な手段です。
設計段階から施工管理・維持管理まで一貫して省エネ設計を意識することで、ZEH-Mの取得だけでなく、長期的なLCC（ライフサイクルコスト）の削減にもつながります。
まとめ｜ZEH-Mは次世代マンション設計の必須要素
ZEH-Mは、単なる環境配慮型の設計指針ではなく、建築設計・構造設計・設備計画・施工管理が一体で取り組む持続可能な建築モデルです。
今後、省エネ法や建築物省エネ性能表示制度（BELS）などの改正により、集合住宅におけるZEH-M適合の重要性はさらに高まるでしょう。
設計者としては、外皮性能のシミュレーションや設備効率の検討だけでなく、建築主への説明力・提案力の強化も求められます。
これからのマンション設計において、ZEH-Mは“知っていて損はない”どころか、“知らなければ取り残される”ほどの基本知識になりつつあります。
