店舗兼用住宅計画時の気になるポイント!

近年の多様な働き方の中で、ライフスタイルに合わせた働き方ができるスモールビジネスの人気が高まっています。住宅の一部をエステサロンやカフェなどに充て、「働く」と「暮らす」を一体化させた効率的な空間利用として、店舗兼用住宅を希望する人が増えています。

店舗兼用住宅は、テナントを借りる費用がかからないことや、条件によっては事業ローンより金利が安い住宅ローンが利用できること、通勤時間がゼロになり時間を有効に使えるなど、多くのメリットがありますが、土地の用途地域によっては、営業したい業種の建物が建築できないこともあり、計画段階から慎重に検討していく必要があります。

店舗兼用住宅と店舗併用住宅の違い・その定義と理解

店舗兼用住宅と似ている建物に店舗併用住宅があります。建築基準法では、兼用住宅が構造的、機能的に住宅を主とした構造や用途とみなされ、兼用住宅の方が併用住宅よりも建てやすい傾向があります。
また、建築資金にローンを利用する際には、店舗兼用住宅の方が事業用ローンより金利が安い住宅ローンが適用されやすくなっています。店舗兼用住宅や店舗併用住宅のローンは複雑な面がありますが、金融機関や専門家に相談しながら適切に計画を立てることで、最適なローンの組み方を検討することが重要です。

構造的な違い

■店舗兼用住宅
・店舗スペースと住居スペースが同じ建物内で行き来できる構造
・店舗と住宅の間に内部での移動経路がある

■店舗併用住宅
・店舗スペースと住居スペースが完全に分離されており、建物内で直接行き来できない
・店舗と住宅の間に内部での移動経路がない

法的な違い

■店舗兼用住宅

  • 「第一種低層住居専用地域」でも建設が可能。ただし、店舗面積が50m²以下で、かつ建築物の延べ面積の2分の1未満という条件があります。

■店舗併用住宅

  • 「第一種低層住居専用地域」では建設できない。より緩和された用途地域での建設が必要です。

ローンの基本的な違い

■店舗兼用住宅

  • 建物全体に住宅ローンを適用できる可能性が高い
  • 住宅部分と店舗部分が一体となっているため、一本のローンで対応可能なことが多い

■店舗併用住宅

  • 通常、住宅部分には住宅ローン、店舗部分には事業用ローンを利用する
  • 二本立ての借入になることが多い

住宅ローン利用の条件

両タイプとも、以下の条件を満たせば住宅ローンを利用できる可能性があります。住宅ローンを利用できれば、住宅ローン控除を受けられるメリットがあります。

  • 建物全体の床面積のうち、住居用部分が2分の1以上
  • 店舗部分は自分または同居者が使用
  • 住居部分と店舗部分が一つの建物として登記できる

消防設備設置要件への理解

店舗部分と住宅部分の面積比率が、消防法上の扱いを決定する重要な要素となります。

店舗部分 < 住宅部分

  • 店舗部分が50m²以下の場合: 一般住宅扱い
  • 店舗部分が50m²超の場合: 複合用途防火対象物扱い

店舗部分 ≒ 住宅部分

  • 複合用途防火対象物扱い

店舗部分 > 住宅部分

  • 事業所扱い

消防設備の設置義務

一般住宅扱いの場合

  • 基本的に消防法上の申請や検査は不要
  • ただし、消火器の設置は推奨されます

複合用途防火対象物または事業所扱いの場合

  • 延べ面積300m²以上の場合: 消防用設備等の設置届が必要
  • 収容人員によっては防火管理者の選任届が必要

店舗兼用住宅の計画で注意すること

店舗兼用住宅は、自宅と店舗が切り離しにくい環境になるため、便利で快適な反面、店舗と住居の両方の特性を考慮し、動線、プライバシー、セキュリティを総合的に検討することが重要です。また、駐車場の確保や照明など、近隣との関係も考慮する必要があります。将来的に賃貸として貸し出すことや、リフォームして住宅として利用するなど柔軟に対応できる設計にしておくと、少ない負担で用途変更が可能です。

動線の分離

■店舗部分と住居部分の動線を明確に分けることは、プライバシーを確保し、ストレスなく快適に生活する上で非常に重要です。

■セキュリティ対策としても必須ですので、計画段階から様々な場面をシミュレーションして設計に反映する必要があります。

  • 店舗と住居の出入口を別々に設置
  • 顧客と居住者の動線が交錯しない設計
  • 内部で店舗と住居の行き来ができる内部の出入口を設置

プライバシーの確保

■住居部分のプライバシーを守るための対策を講じ、音や臭いが双方に影響しないよう工夫する必要があります。

  • 1階を店舗にし、住居のプライベートな部分は2階以上に配置
  • 店舗部分から住居部分が見えないよう配慮
  • 遮音性の高い壁や床材を使用して防音対策
  • 適切な換気設備を設置

セキュリティ対策

■適切な動線とプライバシーが確保されていることは、セキュリティ対策にもつながります。さらに、店舗と住居をつなぐ内部ドアは、頻繁に使用されるため、防犯性能と使いやすさを兼ね備えた施錠システムを導入することが重要です。

  • 安全で日常的に使いやすい施錠システムを導入
  • 防犯カメラの設置
  • 現金や在庫の適切な管理場所の確保

総合的な対策

■柔軟性のある設計

  • 店舗を閉めた後の利用方法等も考慮しておく必要がある
  • 将来的なテナント貸しの可能性も視野に入れておく
  • 設備配管を集約し、レイアウト変更を容易にできる設備計画を立てる
  • 店舗用と住居用の水道・電気メーターを分ける

■近隣への配慮

  • 騒音や路上駐車などによる近隣トラブルを防ぐため、防音対策や必要な駐車台数を設定する
  • 外観や照明は、店舗のコンセプトや独創性を保ちつつ近隣にも配慮する

店舗兼用住宅の計画には、店舗と住居の特性を考慮し、法律・消防法・ローンなど様々な要素を総合的に検討する必要があります。動線やプライバシーの確保、セキュリティ対策を徹底することで、兼用住宅のメリットを最大限に活かした快適で効率的な住環境を実現できます。また、将来的なリフォームや賃貸対応を視野に入れた柔軟な設計が、長期的な価値を高める鍵となります。