2025年4月 建築確認申請が電子化!業務の変化と課題とは?

2025年4月から、全国のすべての特定行政庁・指定確認検査機関において、建築確認申請のオンライン受付が本格的に開始されることになりました。
国土交通省は、人口減少や人手不足を背景に、業務の効率化と安全・快適な建築環境の実現を長期的に計画し目指しています。
その中で、建築確認のオンライン申請は、単に紙が電子に換わるだけでなく、未来を見据え、業界全体の業務プロセスや働き方を根本から変える、DX(デジタルトランスフォーメーション)として期待されています。
この記事では、建築確認申請電子化の現状と今後の展望、実際の業務に起こりえる変化について、実務に沿った視点で解説します。

1. 電子化の進展状況から本格稼働へ向けて

電子化率の推移

建築確認申請において、2015年に2.3%だった電子化率は、2023年第1四半期時点で43.8%にまで上昇し、年々増加してきています。
しかし、電子申請対応状況(2023年4月時点)

  • 指定確認検査機関:130機関中54機関が対応(41.5%)
  • 特定行政庁:448機関中1機関のみ対応(0.2%)

上記のようになっており、特定行政庁での対応が全く行われていない状況でした。
民間が電子化を進めても、確認申請で紙を印刷する必要があるのは、デジタル化が遅れていると言われても仕方ありません。
そこで、国土交通省は2025年度末までに電子化率50%達成を目標とし、2025年4月からのオンライン受付本格稼働はその目標達成に向けた取り組みとなります。

現状の課題

これまでは、電子申請に対応している確認検査機関でも、消防同意などの関連手続きは紙ベースで行われることが多く、完全なデジタル化とはいえない状況でした。
また、地域や機関によって申請システムが異なり、複数の地域で事業を展開する企業にとっては対応が煩雑で多くの手間や時間が必要でした。

オンライン申請で建築確認はどう変わる?
2025年4月からは、国土交通省が提供する共通システムが導入され、全国の特定行政庁・指定確認検査機関でオンライン申請が可能になります。
建築確認申請だけでなく、消防同意や省エネ適合判定などの関連手続きも同一システム上で処理できるようになる点は、特に業務が効率化されると期待できます。

2. オンライン申請による実務の変化

申請準備と提出プロセスの変革

建築確認申請の準備と提出は、設計事務所や建設会社にとって大きな負担となる業務です。
紙ベースで申請する場合は、図面や申請書類をファイリングし、確認検査機関の窓口まで書類を持参する必要がありました。
共通のオンライン申請では、CADで作成した図面データをPDF化し、申請時にアップロードするだけで建築確認申請が完了します。
以前オンライン申請に必要だったデジタル署名なども既に廃止されているので、オンライン申請のハードルは随分低くなっています。
そして、書類に不備があればすぐに通知され、オフィスにいながらデータを修正して再提出までが可能です。
印刷の必要がなく、窓口まで持参しなくてもよくなることで、時間とコストは大幅に削減され、業務の大幅な効率アップにつながるでしょう。

また、環境面でも紙資源が節約され、SDGsの観点からも有効といえますし、保存についても物理的な場所を取らず、管理がしやすいことも実務では重要なポイントです。

消防同意手続きの一元化

2023年には43.8%が建築確認申請の電子化を行っており、これまでも規模の大きい事業者などではオンライン申請を利用していました。
しかし、消防同意の手続きを建築確認とは別に行う必要があったことで、負担が大きいと感じる原因となっていました。
実務として、電子申請対応の確認検査機関に建築確認を申請した後も、消防同意を得るための消防署用の書類を準備し直す必要があり、二度手間になっていました。

2025年4月からは、国土交通省の共通システムを全国の消防機関でも利用できるようになり、建築確認と消防同意が同一システム上で処理されるようになります。
これまでの二度手間が解消されることは、従来からオンラインで建築確認申請を行っていた申請者にとって画期的な改変といえます。
建築確認申請で提出したデータが消防機関にも共有され、消防からの質問や指摘事項もオンラインで確認・対応できるようになる予定です。

これまでは、消防設備で指摘され、建物に変更が生じた場合などは建築確認申請も修正する必要がありました。
しかし、一元化されることで両方の書類修正をする必要がなくなり、整合性がとれ、かつスムーズに手続きを進めることができるようになります。

特に商業施設や集合住宅など、消防設備が重要となる建築物では、消防同意を得るために全体のスケジュールがずれ込むケースもありました。
今後は、消防同意のプロセスが大幅に効率化されることで、遅延リスクが減ることが期待できるでしょう。

審査状況のリアルタイム確認

これまで、建築確認の進捗状況を知りたいときは、申請者が確認検査機関に電話をかけて確認することが多かったと思います。
オンライン申請では、審査の進捗状況がリアルタイムで更新され、ポータル上で24時間いつでも申請状況を確認できるようになります。
必要な追加資料などの要求もプッシュ型で即時通知される運用になるようです。
審査の進捗状況や審査完了予定日もわかるので、申請者は工程を立てやすく、クライアントへの報告も正確かつタイムリーに行えるようになります。

審査業務の変革

確認検査機関の審査員にとっても、オンライン化は業務プロセスを大きく変えることになります。
従来は紙の申請書類を物理的に確認し、疑問点があれば申請者に電話で問い合わせ、回答を待つ。
働き方改革が推進されてきていることもあり、担当者同士のスケジュールが合わず、問い合わせから回答までに時間がかかるケースも出ていました。

しかし、電子化により、審査員はデジタルデータを画面上で確認し、疑問点があればオンラインで即時に質問を送信できます。
申請者からの回答もシステム上で確認でき、メールや電話で行っていた時のように、双方のスケジュールや時間に縛られることなく進めることが可能になります。

さらに、複数の審査員が同時に同じデータにアクセスして確認できるため、連携もスムーズになります。
また、自動チェック機能があるので、審査員は判断が必要な重要な部分に集中して対応することができ、審査にかかる日数の短縮と審査精度の向上を同時に実現することができるでしょう。

一方で、電話や対面の方がコミュニケーションを取りやすいという声も根強いです。
しかし、マンパワーが不足している昨今、必要な時に十分に話し合える時間を確保するためにも、デジタル化を推し進めることで、限られた時間を有効に使うことが可能になっていくでしょう。

3. BIMの導入と建築確認申請のこれから

国交省は2026年春頃にBIM図面審査開始(BIMで作成した図面データによる確認申請)を開始する目標を持っています。
BIM(Building Information Modeling)とは、建築の3Dモデルに様々な情報を持たせ、建築プロジェクト全体のデータを統合的に管理するためのプラットフォームです。

ただ、導入している事業者はそれほど多くないので、まだイメージがつかめない方もいらっしゃるかと思います。
BIM導入のメリットとして、申請前に適法かどうかを確認できるので、申請後の設計変更リスクが減り、建築プロジェクトの設計から施行、維持管理までを包括的に管理できるようになります。

また、行政手続きも迅速になり、建物完成後のメンテナンスにも利用できるなど、多くの可能性が期待されています。
しかし、初期費用が高く、中・小規模事業者での導入ハードルが高いこと。2D設計から3D設計への移行や技術者の育成などには時間がかかること。

また、ソフト間でのデータ互換についての問題等々、解決しなければならないことは多岐にわたります。
これら多くの課題を克服し、業界の効率化が進むことで、BIMは単なるツールではなく、業界の働き方を変える可能性を持っています。

4. 省エネ適合判定のオンライン化

オンライン化による手続きの簡素化

改正建築物省エネ法の施行により、省エネ基準適合義務が拡大し、適合判定の申請件数が増加します。
2025年4月からは、省エネ適合判定もオンラインで申請・処理できるようになります。
判定結果データは他の申請手続きにも再利用できるため、データ入力の手間も削減されます。

省エネ性能の見える化の促進

オンラインシステムが導入されると、建物の省エネ性能が「見える化」されていくと考えられています。
同じフォーマットでデータが集まれば、建物の省エネ性能が分かりやすく、比較も容易になり、環境に優しい建築物が普及していくことが期待されます。

「見える化」が一般的なれば、消費者も住宅や建築物の省エネ性能を数字で比較できるようになるので、光熱費の比較や環境配慮型の建築物など、選択する基準が明確になるでしょう。

5. DX化に伴う業界の懸念と長期的メリット

確認申請のオンライン申請について、新しいシステムを覚えることや、移行期間の混乱に対して心理的抵抗がある方は少なくなく、特に長年紙の図面で仕事してきた人たちには、デジタルへの切り替えはハードルが高いともいえます。
しかし、現在のところ日本の人口減少や労働人口の減少は止める手立てはなく、行政も将来を見据え、これまでにないスピードでDX化を推進しています。

導入への抵抗があったとしても、長期的に見るとDX化には多くのメリットがあります。
確認申請関連業務の時間やコストが削減されれば、その分設計の質向上や新規顧客獲得、創造的な業務に充てることができるようになります。

また、オンライン化によって場所や時間に縛られない働き方も可能になり、ワークライフバランスの向上や地方での建築業の活性化にもつながる可能性にも繋がっていきます。

2025年4月から電子申請システムが全国で稼働し、業界のデジタル化が一層進むことになるでしょう。
このデジタル化は、単に紙がデータに置き換わるだけでなく、人口や労働力の減少という日本が抱える問題への対策として有効な手段となり、持続可能な社会の構築にとっても重要な施策です。

申請作業がデジタル化されることで、手間やコストが削減され、クライアントとの折衝や、建築物や空間の快適さや安全性、利便性などを設計、施工する本来メインといえる業務に多くの時間が使えるようになります。

また、効率的な業務の流れができると、少ない人数でも質の高い建築や空間を創造することに集中できるようになるでしょう。
建築DXは単なる電子化ではなく、人口減少時代に建築業界が生き残るための大切な転機です。

〈参考資料〉