サステナブルなRC設計に必要な『構造躯体の見直し』視点

1. はじめに:なぜ今、RC設計にサステナビリティが求められるのか

カーボンニュートラルへの世界的な流れが加速する中で、建設業界も環境負荷低減への転換が急務となっています。日本政府も2050年カーボンニュートラル達成を宣言しており、建築物のライフサイクル全体で排出されるCO₂の削減が求められています。

特に鉄筋コンクリート(RC)構造は、その耐久性の高さから多くの建物に採用されていますが、同時にセメント使用量が多く、CO₂排出量が大きい構造形式でもあります。したがって、構造設計の視点から環境への負荷を見直すことが、サステナブル建築への第一歩となるのです。


2. 構造躯体が環境負荷に与える影響とは

RC構造の主な環境負荷要因は、セメント製造時に発生するCO₂です。セメント1トンあたりの製造時排出量はおよそ0.9トンのCO₂に相当し、建築物に使用されるコンクリートの体積が大きくなるほど環境負荷も比例して増加します。

また、構造安全性を過剰に確保するために行われる「過剰設計」も問題です。必要以上に大きな柱・梁・スラブは、材料コストの増加だけでなく、資源の無駄遣いや運搬・施工時のエネルギー消費の増大にもつながります。


3. サステナブルな構造設計に向けた「躯体見直し」の視点

環境負荷を低減しながら構造性能を維持するためには、以下のような「見直し」が設計段階で求められます。

  • スラブ厚・梁成・柱断面の最適化:構造計算による安全性確認を前提としながら、適切な部材寸法を見極め、無駄を削減する。
  • 再生資材や低炭素型コンクリートの採用:フライアッシュ混合セメント、CO₂吸収型コンクリートなど、材料自体の環境性能を見直す。
  • 長寿命化設計とLCC(ライフサイクルコスト)の視点:将来的な補修・更新コストや環境負荷まで考慮した「100年建築」的発想が重要となります。

4. 実例紹介:環境性能を高めたRC構造の見直し事例

たとえば、ある大手ゼネコンの共同住宅プロジェクトでは、スラブ厚を180mmから150mmに見直すことで、建物全体で約80トンのCO₂排出を削減することに成功しました。

また、公共建築の耐震改修においては、繊維補強材を使うことで鉄筋の使用量を削減し、従来よりも20%軽量な構造躯体を実現したケースもあります。これにより、工期短縮とコスト削減も同時に達成されました。


5. 設計段階で取り組むべき3つの実践アクション

① ZEB・LCCO₂評価との連携

構造検討初期において、意匠設計者・設備設計者と連携し、ZEB化(ゼロ・エネルギー・ビル)やLCCO₂の評価指標に基づいた設計を行うことが、今後のスタンダードになります。

② BIMを活用した環境配慮設計

BIM(Building Information Modeling)を通じて、構造材の数量管理、環境影響評価、施工フェーズまで見据えた設計プロセスを実現できます。

③ サプライヤー・施工者との早期連携

低炭素資材の選定やプレキャスト化による効率的な施工など、設計者だけでなく現場関係者を巻き込んだ早期協議が効果を発揮します。


6. おわりに:サステナブルなRC設計の未来と設計者の役割

これからの構造設計者には、単なる「強度」や「コスト」だけでなく、環境性能と社会的責任の両立を意識した設計判断が求められます。

技術革新と環境配慮が交差するこの時代に、構造技術者は「持続可能な未来を形づくる建築のキーパーソン」としての役割を担っています。設計の現場からできることを一つずつ積み上げることが、建築業界全体のサステナビリティ実現に繋がるのです。