「プレカットと現場溶接」鉄骨造の施工性を左右する選択肢

1. はじめに:鉄骨造における施工方式の選択がもたらす影響

鉄骨造において「プレカット(工場溶接)」と「現場溶接」の選択は、施工精度や工期、さらにはコストと安全性にまで大きく関わります。構造設計やディテール設計段階での判断が、実際の施工段階での作業効率や品質に直結するため、設計者や施工管理者が正確な知識と判断軸を持つことが求められます。

2. プレカットとは?工場加工のメリットと限界

プレカットとは、鉄骨部材をあらかじめ工場で切断・溶接・組立まで済ませておく施工方式です。

メリット:

  • 高精度な加工が可能(CNC機器やロボット溶接など)
  • 品質が安定しやすく、施工誤差が少ない
  • 現場作業が最小限で済むため、安全性・スピードが向上

限界:

  • 工場加工可能なサイズや形状に制限あり
  • 長尺部材の輸送コストと納入制約
  • 工場と現場間のコミュニケーション不足による再加工リスク

3. 現場溶接とは?柔軟性とリスクのトレードオフ

現場溶接は、鉄骨部材を現場で位置合わせしながら直接溶接する工法です。

メリット:

  • 現場状況や微妙なズレへの柔軟な対応が可能
  • 複雑な接合部でも即時に処理できる
  • 加工誤差や設計変更にも対応しやすい

デメリット:

  • 天候や気温など環境の影響を受けやすい
  • 溶接技術者のスキルに大きく依存する
  • 品質のばらつきや安全管理の難しさ

4. プレカット vs 現場溶接:選定の判断基準

比較項目プレカット現場溶接
精度高い中〜高
工期短い長くなりがち
コスト高め(工場加工・運搬費)状況次第(人件費・手戻りリスク)
安全性高い(現場作業が少ない)作業環境に依存

設計者は、建物の規模、形状、工期、予算、現場環境などを総合的に考慮して選定を行う必要があります。

5. 最新事例に見る施工性向上の工夫

中高層オフィスビル:プレカット主体の短工期実現例

  • 某都心プロジェクトでは、全体工程を1.5ヶ月短縮。溶接検査の省力化も実現。

不整形構造の教育施設:現場溶接とボルト併用

  • 曲面形状の架構に対し、接合部の大部分を現場溶接としながらも、要所に高力ボルト接合を使用。精度と安全性を両立。

6. 設計段階で意識すべき「接合方法」の最適化

鉄骨造における接合方法は、構造計画やディテール設計と密接に関係します。

  • ボルト併用やスリット付きプレートの活用による施工性向上
  • 柱梁接合部の詳細検討により、溶接長や作業性を最適化
  • 設計・施工・製作会社の三者協議による納まり調整が重要

7. まとめ:合理的な接合方法選定が生む現場の差

鉄骨造の施工性を大きく左右する「プレカット」と「現場溶接」の選択。現場の実情と設計意図を的確に結びつけるためには、どちらか一方を選ぶのではなく、両者を適材適所で使い分ける戦略的な思考が求められます。次世代の鉄骨施工においては、設計・施工一体となった合理的な接合計画が差別化のカギとなります。