地域材を活かした設計提案のストーリーづくり

目次
1. はじめに:なぜ今「地域材」なのか
近年、建築における「地域材」への注目が高まっています。その背景には、SDGs(持続可能な開発目標)への対応や脱炭素社会への移行、地域経済の活性化といった社会的要請があります。
加えて、設計に“物語性”を求めるクライアントが増え、「どのように、なぜこの素材を使うのか」が評価対象となる傾向も強まっています。地域材の活用は、単なる素材選定ではなく、建築そのものに説得力と感情的な価値を与える「ストーリーの核」となり得るのです。
2. 地域材とは?その定義と特長
「地域材」とは、建築現場から一定距離内で伐採・加工された木材のことを指し、主にスギやヒノキ、クリ、カラマツなどが対象となります。地元産材とも呼ばれ、その利用には以下のような特長があります。
- 輸送エネルギーの削減によるCO₂排出抑制
- 地域の林業・製材業の振興
- 伝統建築と調和しやすい風合い
また、合法木材制度やCLT(直交集成板)の活用支援策など、国や自治体による支援制度も整っており、採用しやすい環境が整いつつあります。
3. ストーリーの核となる「地域らしさ」の抽出方法
地域材を設計の「物語」として活かすためには、素材にまつわる背景を掘り下げることが大切です。
- その土地の気候や風土が育んだ木の特性
- 地元職人や製材所との歴史
- 地域住民の記憶に残る風景や建物
これらをヒントに、施主との対話を重ね、設計に反映させていくことで、単なる素材選定を超えた“意味のある建築”が生まれます。
4. 地域材活用の実践例と設計手法
たとえば、長野県のある公共施設では、地元産のカラマツを活用した構造材が、地域住民の誇りとなっています。また、店舗設計では「山の恵みを感じられる空間」としてスギの無垢材を使った内装が好評を博しました。
設計時には以下の点を意識することで、素材の魅力を最大限に活かせます。
- 木目や色合いを活かす照明・見せ方
- 寸法・乾燥のばらつきへの構造的配慮
- 接合部や仕上げ方法に地域工法を取り入れる
5. 地域材を使う際の課題とその乗り越え方
一方で、地域材には以下のような課題も存在します。
- 品質のばらつきや安定供給の不安
- 流通量が少ないため、コストが割高になるケース
- 施工者側の慣れ・理解不足
こうした課題を乗り越えるためには、設計段階から工務店や材木店との密な連携が不可欠です。初期段階で「地域材を使いたい」という意思を共有し、加工方法・納期・寸法の規格などをすり合わせることで、トラブルを未然に防げます。
6. 設計提案書に「物語性」を持たせるコツ
提案書の中に“ストーリー”を組み込むことで、施主や自治体関係者の共感を得ることができます。具体的には、
- 「地域との関係性」から逆算したコンセプト設定
- 建設地周辺の自然・文化要素をビジュアル化
- 素材選定の理由を「ストーリー仕立て」で説明
こうした表現により、設計提案が「共感を呼ぶ企画書」としての説得力を持つようになります。
7. おわりに:地域と建築をつなぐ未来へ
地域材は、単なる素材ではなく、「土地と人をつなぐメディア」としての役割を持っています。建築家や設計者は、地域資源を読み解き、それを空間という形で表現する“編集者”とも言える存在です。
これからの時代、単に美しい建物をつくるのではなく、「その土地でしか生まれ得ない建築」を生み出す視点が求められます。地域材を活かした設計提案は、まさにその第一歩となるのです。