コア抜き後の補修品質を向上させる材料選定
目次
1. はじめに:コア抜き後の補修が建物品質に与える影響とは
コア抜きとは、コンクリート躯体に円筒形の穴を開ける工法で、電気・設備配管や配線ルートの確保、構造確認のための抜き取り試験などで必要となります。
しかし、コア抜き後の補修が不十分だと、躯体強度の低下や漏水・錆びの原因となり、建物全体の品質に大きな悪影響を及ぼします。
この補修作業において、最も重要となるのが「材料選定」です。適切な補修材を選ぶことが、補修精度・耐久性・美観性を大きく左右します。
2. コア抜き部補修に求められる性能要件
高品質な補修を実現するには、以下のような性能要件を満たす材料を選定する必要があります:
- 収縮性が低いこと:乾燥収縮による隙間やひび割れのリスクを抑える。
- 接着性が高いこと:既存のコンクリートと一体化し、剥離を防ぐ。
- 耐久性があること:長期的に物理的・化学的劣化に耐える性能。
- 防水性があること:雨水や湿気の浸入を防ぎ、鉄筋の腐食を抑制。
- 仕上がりの美観が良いこと:露出部の場合、特に仕上がりの見栄えも重要。
3. 補修材の種類と選定ポイント
ポリマーセメントモルタル(PCM)
セメント系のベースにポリマーを混入した補修材で、コンクリートとの親和性が高く、追従性や施工性にも優れる。一般的なコア抜き補修では最も多く使用されている。
エポキシ系充填材
非常に高い接着力と耐薬品性を持つが、収縮が大きく脆性が高いため、構造部の補修には注意が必要。止水性能を重視する部分に適している。
発泡系充填材
フォーム状の補修材で、簡易補修や仮補修に適しているが、構造的な補強を必要とする部位には不向き。使用範囲を明確にする必要がある。
塗布型・注入型の使い分け
- 塗布型:表面仕上げや浅い欠損の補修に向いている。
- 注入型:貫通穴や深い欠損など、奥行きのある部位に充填する際に有効。
4. 現場事例に学ぶ:補修品質を左右する材料選定の実際
失敗事例
・冬期に通常のモルタルを使用した結果、低温による硬化不良と剥離が発生。
・PCMを使わず、単純なセメントペーストで補修したことで接着不良とひび割れが再発。
成功事例
・湿潤環境下であっても、高接着力・低収縮のPCMを採用したことで、安定した補修が実現。
・耐久性重視の現場では、二材混合型のエポキシモルタルを使い、長期的な水密性能を確保。
採用実績のある補修材メーカー例
- 太平洋マテリアル:リフレモルタルシリーズ
- UBE三菱:ウベリペア
- BASF(マスターエマコ)など
5. 材料選定時に考慮すべき周辺要因
- 温湿度と施工タイミング:気温5℃以下では硬化遅延や強度不足リスク。速硬タイプの材料選定がカギ。
- 既存コンクリートの状態:劣化・中性化が進んでいる場合は、下地強化やプライマー処理が必須。
- 作業性とコスト:高性能材は高コストになりがち。施工規模や必要性能とのバランスが重要。
- 流通性・納期対応:入手困難な製品は緊急対応に不向き。安定供給できるメーカーの製品を選ぶべき。
6. 補修精度を高めるためのチェックリストと施工管理の工夫
- 下地処理の徹底:切削・清掃・油分除去の3ステップが基本。
- プライマー塗布:接着性能を高めるために省略しない。
- 混練・塗布条件の管理:カタログ記載の水比や施工時間を厳守。
- 養生:特に高温・低温環境では慎重に。急激な乾燥はクラックの原因。
- 写真記録:補修前後の状態、材料名・施工条件を記録しておくと後のトラブル防止に有効。
7. まとめ:補修材選定が「品質トラブル回避」のカギ
コア抜き後の補修は、単なる埋戻し作業ではなく、構造安全性や耐久性、美観に直結する重要な工程です。
現場条件や求められる性能に応じて最適な材料を選定することが、**「施工品質の見える化」**にもつながります。
技術者の目利きが問われるこの工程こそ、現場管理力の差が最も出るポイント。コア抜き補修を「弱点」ではなく、「信頼性を高める強み」として設計・施工に活かしていきましょう。


