打設トラブルゼロへ!RCコンクリート配合設計の勘所

1. はじめに:なぜ今「配合設計の見直し」が注目されるのか

RC構造物の品質を左右する要素の中で、コンクリート配合設計は打設段階のトラブルを防ぐ“根本対策”として近年あらためて注目されています。ジャンカ、打ち継ぎ不良、初期ひび割れなどの施工不良は、単なる打設ミスではなく、配合そのものに起因するケースが少なくありません。

国土交通省による品質確保の指針や、ゼネコン各社による施工標準の強化も相まって、配合設計は「設計部門だけの領域」ではなくなっています。現場との連携を前提とした実用的な配合の見直しこそ、品質・コスト・工期を守る鍵となるのです。


2. 配合設計の基本知識と仕様の考え方

配合設計とは、コンクリートに使用するセメント・骨材・水・混和剤の種類とその割合を決定するプロセスです。重要なのは、**耐久性・強度・施工性(ワーカビリティ)**のバランスを現場ごとに最適化することです。

配合要素の選定ポイント:

  • セメント種別:早強・中庸・高炉B種など、施工時期や強度発現のスピードに合わせた選定が重要。
  • 骨材の粒度・形状:粗骨材は流動性や締固め性能に影響。間詰まりを防ぐ粒度調整が肝。
  • 水量:ワーカビリティと収縮のバランスに直結。多すぎると強度低下とひび割れの原因に。
  • 混和剤:AE剤や高性能減水剤の使い分けで施工性が大きく変化。

設計の根拠となるJIS A 5308(レディーミクストコンクリート)を軸に、現場仕様書との整合性を図りながら、過去事例の配合パターンを蓄積・再活用することが理想です。


3. 打設トラブルを防ぐ「配合設計5つの勘所」

1. スランプの適正設定と温度管理

スランプは施工性を確保するための指標ですが、高すぎると材料分離やポンプ詰まりの原因に。外気温が高い夏場や、長距離圧送が必要な現場では、スランプとコンクリート温度の関係性に注意が必要です。

2. 水セメント比と強度の関係

水セメント比(W/C)はコンクリートの強度と耐久性を決定づける重要指標。設計基準強度を満たすだけでなく、実際の施工条件下での強度発現状況まで見据えて設定することがポイントです。

3. 使用骨材の粒度・形状と充填性の確保

近年は、角が鋭い砕石よりも丸みのある砕砂を混合して使用することで、充填性や打ち込み易さを高める工夫も広まっています。特にスリムな柱・壁部では詰まりやすいため、骨材選定は慎重に行う必要があります。

4. 混和剤(AE減水剤・高性能AE剤)の正しい使い方

流動性を高めるために混和剤を増量しすぎると、逆に気泡分離や硬化遅延、表面仕上げの不良を招くことがあります。現場の打設条件に応じて、AE剤・高性能AE剤・遅延剤・膨張剤の使い分けが必要です。

5. 施工条件を反映した試験練りとフィードバック

試験練りを行うだけで満足せず、実際の現場状況(運搬時間・型枠寸法・天候など)を反映した調整とデータ蓄積が重要です。現場とのPDCAをまわすことで、次回以降の配合精度が格段に高まります。


4. 実例紹介:配合改善で打設トラブルをゼロにした現場

▶ 某RC集合住宅:初期ひび割れの解消事例

施工初期に発生したひび割れを調査した結果、水セメント比が高すぎたことが原因と判明。W/Cを3%下げ、膨張材を追加することで、その後の構造体ではひび割れが激減。

▶ 某高層ビル:スランプ不安定による打設遅延の克服

ポンプ詰まりが頻発していた現場で、混和剤を高性能AE剤に変更し、スランプ10→12cmへ調整。施工性が大きく改善し、打設スピードが20%向上。

▶ 某物流施設:混和剤変更で圧送性が改善

長距離水平圧送が必要な現場において、粘性の高い混和剤から、流動性重視のタイプへ変更。ポンプ圧が安定し、トラブルなしで全打設を完了。


5. おわりに:設計から施工まで一貫した品質確保のために

RC構造の品質確保において、コンクリート配合設計は設計者と施工者をつなぐ“翻訳点”です。現場側の条件や経験知を配合設計に反映し、それを見える化・共有・記録する体制を整えることで、組織全体の施工品質が底上げされます。

  • 現場からの配合フィードバックのルール化
  • 設計・品質・施工の三位一体での検討会実施
  • ベテランの“感覚”をナレッジ化して技術伝承

これからの時代、施工現場と設計部門が「一体となってコンクリートを育てる」姿勢が求められています。打設トラブルゼロの現場づくりは、配合設計の進化から始まります。