冬期打設でも品質確保:温度管理と凍結防止策
目次
1. はじめに:冬期コンクリート打設のリスクとは
冬期のコンクリート打設は、寒さによる初期凍結や強度発現の遅延といったリスクが伴います。気温が5℃を下回ると、セメントの水和反応が鈍化し、初期強度の発現が遅れることで、表面の凍結やジャンカ(豆板)、さらには長期的な耐久性低下を招きます。
現場では、養生温度の管理が極めて重要です。これを怠ると、後工程での不具合や補修コストが発生するばかりか、施主からの信頼低下にもつながりかねません。
2. 冬期打設の基礎知識:JASS5と標準仕様の考え方
日本建築学会の**JASS5(建築工事標準仕様書・同解説)**では、冬期施工を「外気温が4℃以下となることが予想される期間のコンクリート打設」と定義しています。この期間中は、特別な温度管理と施工計画が必要とされます。
また、建築学会仕様では、**打設直後から一定期間の養生温度(通常5℃以上)**を確保することが明記されています。現場ではこれら基準を実際の気象状況に照らし合わせ、温度計測や対応策の記録を必ず残すことが求められます。
3. 打設前の温度管理:配合・材料・事前準備の工夫
冬期施工においては、材料や配合の選定段階から凍結対策を講じることが肝心です。
- セメントの種類や使用量を調整し、発熱量をコントロールします。高炉セメントよりも普通ポルトランドセメントが適しています。
- 練混ぜ水の温度は40~60℃程度に保ち、骨材も事前に温めておくと打設時のコンクリート温度を上げやすくなります。
- 型枠や鉄筋は事前に雪・氷・霜を除去し、必要に応じて加温しておくことも忘れてはなりません。
4. 打設時の凍結防止策:現場で使える具体例
打設時は以下の具体策が凍結防止に効果的です。
- 練混ぜ温度は13℃以上、打込み温度は10℃以上を目安とします。
- コンクリート打設後には保温マットや断熱シートを使用し、外気温の影響を最小限に抑えます。
- 必要に応じて、**仮設の加熱設備(ジェットヒーター・温風機)**を使い、現場全体をテント養生して囲い込む方法も効果的です。
5. 養生期間中の品質管理:温度履歴の記録と確認
初期養生期(打設後1~3日程度)は、強度発現に最も重要な期間です。温度が0℃以下になると水分が凍結し、内部構造が破壊される恐れがあります。
- 温度ロガーを設置し、躯体内部温度を連続計測することで、温度管理のエビデンスを残せます。
- 7日・28日圧縮強度試験によって、設計基準強度の確認を行います。
- 天候や打設日時、気温などの記録を残すことは、品質トレーサビリティや後日の説明責任において重要です。
6. 冬期打設の事例とトラブル対策
失敗例として多いのは、表面の凍結による「浮き」や「白華」、温度差によるひび割れ(温度ひび割れ)、初期強度不足による型枠脱型トラブルです。
一方、成功事例では以下のような工夫が見られます:
- コンクリート打設直後にブルーシートと保温マットで2重養生
- 作業員に対して冬期打設マニュアルを配布し周知徹底
- 冬期施工専用チェックリストを用いた管理項目の明文化
こうした事前準備が、品質事故を未然に防ぐポイントとなります。
7. おわりに:寒冷地・冬期施工に必要な視点とは
冬期打設は、「やればできる」施工であり、成功のカギは段取り力とチーム連携です。現場の一体感がないと、ヒーターの設置・シートの巻き付けなども雑になり、品質トラブルにつながります。
また、現場ごとに気象・気温条件が異なるため、マニュアルに加え現場独自の判断と柔軟な対応力が求められます。
冬期施工の経験を組織的に蓄積し、標準化・教育・共有を進めることが、現場の施工力強化につながるでしょう。


