ガレージ併設RC住宅の大スパン梁設計事例
目次
1. はじめに:RC住宅における大スパン梁設計の注目ポイント
RC(鉄筋コンクリート)住宅にガレージを併設する設計では、車両の出入りに十分な開口幅を確保する必要があり、それがすなわち大スパン梁の設計課題を意味します。車2台分の横並びガレージであれば、少なくとも5〜6m以上の無柱スパンが必要になる場合が多く、これは一般的な住宅構造を超える設計上の工夫が求められる領域です。
また、ガレージの上部が居住空間である場合、梁の大きさや位置がそのまま階高やプランに影響を及ぼします。そのため、意匠・構造・法規を統合的に捉えた計画が不可欠です。
2. 計画概要:対象住宅の基本条件と設計要件
今回の事例は、都市部に計画された地上2階建てのRC造住宅。敷地面積は約120㎡、前面道路幅員5mという典型的な狭小地条件で、敷地形状はやや奥行きのある矩形でした。
1階には**2台分の並列ガレージ(開口幅5.4m)を配置し、その上部にLDKを含む居住空間を設けるプラン。建築基準法の高さ制限(道路斜線・北側斜線)**や構造安全性の確保を前提に、スパン方向に梁を通す計画となりました。
3. 大スパン梁の構造設計方針と検討プロセス
まず重要なのは、スラブの支持条件と荷重条件の整理です。今回は片持ちや中間柱なしで約5.4mスパンを実現する必要があったため、主梁の両端支持を前提に梁せい・幅・配筋構成を決定しました。
以下のような荷重条件を想定しました:
- 自重:RCスラブ+仕上げ
- 積載荷重:住宅居室用途(180kg/㎡)
- 地震荷重・風圧力:建築基準法の告示に準拠
- ガレージ天井下に照明・設備等の吊り込み荷重
構造解析にはBIM連携も視野に入れた構造解析ソフトを使用し、たわみ量とひび割れ指数を重点的に検討しました。
4. 採用した構造形式と断面寸法の工夫
採用したのは、**逆梁形式の大スパン梁(梁成800mm)**です。梁が床スラブ上に出ることで階高に影響はありますが、スパン方向の剛性が確保でき、居住空間側での天井裏利用により意匠的にも許容範囲でした。
また、たわみと割裂対策としてプレストレストコンクリート(PSC)梁の導入も検討しましたが、今回は工期・コストの観点から現場打ちRC梁で対応。断面寸法は800×300mmとし、端部に剪断補強筋を強化配置しました。
5. 施工上の課題と対応策
現場施工では以下の課題が浮上しました:
- 型枠高さの確保と安全性(高梁への対応)
- 鉄筋の定着長確保とスペースの取り合い
- ガレージ天井に設ける貫通配管・設備ボックスとの整合性
これらに対し、梁型枠の一部をシステム型枠で標準化しつつ、設備設計と構造設計のBIM連携により配管経路とスリーブ位置を事前検討。配筋もユニット化し、配筋精度と省力化を両立しました。
6. 実績データと性能評価
竣工後、以下の性能評価を実施:
- 居住空間の床たわみ測定:計画値以下の1/400以内を確保
- ひび割れ調査:ガレージ上スラブに微細な表面収縮クラックはあるものの、構造的に問題なし
- ガレージ利用者・居住者からは「柱のない空間が快適で、車の出し入れも楽」との評価が寄せられました。
7. 類似プロジェクトへの応用可能性
この事例は以下のような住宅計画にも応用可能です:
- ピロティ形式の住宅や集合住宅
- 中庭を挟む大開口リビング併設住宅
- 地下ガレージ+上部居住空間構成の都市型住宅
また、スキップフロア構成と組み合わせて構造的に連動させる設計も十分に可能です。
8. まとめ:大スパン梁設計で実現する新しいRC住宅の可能性
RC住宅におけるガレージ併設計画では、大スパン梁設計が空間の自由度・快適性に直結します。適切な構造設計と施工対応により、意匠性・構造安全性・施工性をバランスよく実現できることが今回の事例で証明されました。
今後も都市部の狭小地住宅や高密度住宅でこのような設計手法が求められる場面は増えると予測され、構造設計者・意匠設計者の連携がより重要になるでしょう。


