サステナブル建材:CLTパネル入門
目次
1. はじめに:なぜ今、CLTパネルが注目されているのか
サステナブル建築の潮流と木質化の進展
地球温暖化や資源枯渇の懸念が高まる中、建築業界でもCO₂排出量の削減や再生可能資源の活用が強く求められています。木材は、炭素を固定する持続可能な建材として再評価され、特に都市部でも木造高層建築が注目されるなど「木質化」が進展しています。
脱炭素社会に貢献する建材としての役割
製造時のエネルギー消費が少なく、カーボンストック機能を持つCLT(Cross Laminated Timber)は、脱炭素社会の実現に向けた有力な構造材。森林資源の循環利用と地域経済への貢献も可能です。
CLT(Cross Laminated Timber)とは何か?
CLTとは、板材を繊維方向が直交するように積層・接着した大判の木質パネルです。構造用合板のように多層構造で、剛性・強度・寸法安定性に優れ、壁・床・屋根などに使用されます。
2. CLTパネルの基本構造と製造工程
直交積層構造の概要
CLTは3層以上の板材(ラミナ)を、各層で繊維方向を直交させて積層することで、縦横両方向の荷重に耐える構造になります。通常は奇数層(3層、5層、7層など)で構成されます。
製造プロセスと使用される樹種
主にスギ、カラマツ、ヒノキ、トドマツなどの針葉樹が用いられます。含水率の管理、接着剤の選定、高圧プレス、養生といった工程を経て、大型のCLTパネルが製造されます。
JAS認証と国内基準
日本ではJAS規格によりCLTの寸法、性能、品質管理が規定されています。建築基準法でもCLT構造の設計に関する技術的指針が整備され、実務レベルでの利用が加速しています。
3. CLTの性能評価:強度・断熱・耐火性
構造性能(圧縮・曲げ・せん断)
CLTは縦横方向に強度を持つため、壁・床・屋根として構造躯体に使える素材です。RC造や鉄骨造に比べ軽量でありながら、耐震性や剛性に優れています。
熱性能・断熱性の特長
木材は熱伝導率が低く、CLTは断熱性にも優れます。高断熱・高気密住宅の構造材としても適しており、省エネルギー建築との相性が良好です。
耐火・遮音性能とその評価方法
厚みのあるCLTパネルは炭化層を形成することで一定の耐火性を発揮します。遮音性についても、空気音遮断・重量衝撃音対策を施せば、集合住宅でも活用可能です。
4. CLTパネルの設計活用事例
住宅・中高層ビル・公共施設の採用例
低層住宅だけでなく、3階建て以上の集合住宅、学校、保育園、庁舎など、幅広い用途で採用が進んでいます。
国内外の代表的なCLT建築プロジェクト
- 日本:木造中層集合住宅「PORT PLUS」(横浜)
- 海外:ノルウェーの高層木造ビル「Mjøstårnet」(18階建)
RC・鉄骨とのハイブリッド構造事例
RC基礎+CLT上部構造、鉄骨フレーム+CLT壁など、他構造材との複合使用で柔軟な設計対応が可能になります。
5. CLT活用のメリットと課題
工期短縮・環境負荷低減・意匠性の向上
プレカット加工による現場作業の省力化、CO₂排出量の抑制、木質空間によるデザイン性向上といった利点があります。
国内供給体制の現状と課題
一部大手製材メーカーが生産を担っていますが、地域間の供給格差、輸送コスト、加工対応力など課題も残ります。
クラック・湿気・コストの懸念点
CLTの接合部でのクラック発生、含水率管理が不十分な施工による性能劣化、高コスト化などへの注意が必要です。
6. 国の政策とCLT普及支援策
林野庁・国交省による木材利用促進政策
公共建築物等木材利用促進法の改正(2021年)や木造都市モデルの推進により、CLT利用が法的にも後押しされています。
補助金・規制緩和・技術開発の支援動向
構造設計支援、実証事業への助成、設計ガイドライン整備など、多方面から支援体制が整備されつつあります。
建築基準法との整合性と今後の展望
CLT建築の耐火性能・構造基準の明確化により、都市部や中高層建築でのさらなる普及が見込まれます。
7. まとめ:未来の建築を支えるCLTパネルの可能性
カーボンニュートラル実現への貢献
森林資源の持続可能な活用により、建築分野の脱炭素化に大きく貢献します。
地域材活用と地方創生への効果
地産地消の観点から地域経済の活性化につながり、地方林業の再生にも寄与します。
設計者・施工者が今後注目すべきポイント
性能評価の確立、施工ノウハウの共有、構造的最適化を図りつつ、都市型CLT建築の拡大を見据えた設計力が求められます。


