シール材の可塑化と劣化対策
目次
1. はじめに:なぜシール材の可塑化と劣化が問題になるのか
建築物の外装や開口部には、風雨や温度変化から内部を守るために「シーリング材(シール材)」が用いられます。その役割は単なる充填材にとどまらず、構造的な隙間を柔軟に追従して防水・気密性を確保する極めて重要な部材です。
しかし、経年劣化によりこのシール材が「可塑化」することで、べたつきや流出、密着力の低下などが生じ、結果的に漏水や外壁の剥離といった重大な不具合を招きます。可塑化は早期に発見・対処すれば大事には至らない一方、見逃すと補修範囲が大きくなり、コスト・工期ともに膨らみます。
本記事では、建築現場で実際に直面する可塑化の症状から、原因、選定方法、補修手法までを体系的に解説します。
2. シール材の基本構造と成分
シール材は主に以下のような主成分と可塑剤(柔軟剤)で構成されます:
- 主成分:
- ポリウレタン(PU)系:施工性と塗装適合性に優れる
- シリコン系:高い耐候性を持つが、塗装不適
- 変成シリコン系:両者の中間でバランスが良い
- 可塑剤の役割:
- 可塑剤はシール材の柔軟性や伸縮性を担う重要な成分ですが、時間の経過とともに材料内部から移動し、外部へにじみ出る「ブリード現象」を引き起こすことがあります。
- 一成分形 vs 二成分形:
- 一成分形:カートリッジ式で施工が簡易
- 二成分形:混合が必要だが耐久性に優れる
このような構造と成分を理解することで、建物用途や部位に応じた適切な材料選定が可能になります。
3. 可塑化とは何か?症状と診断方法
**可塑化(Plasticization)**とは、シール材中の可塑剤が過剰に表面に移行し、材料が柔らかくなりすぎたり、粘性を帯びたりする現象です。
主な症状:
- 表面のべたつき(ホコリや汚れの付着)
- 変色・退色(紫外線やブリードによる)
- 可塑剤の流出・滴下(特に高温時)
周囲材との相互作用:
- 樹脂サッシや塩ビ配管などに使用される可塑剤と反応しやすく、相互ブリードが起こることもあります。
現場での簡易診断:
- 指で触ってべたつきを感じる
- ティッシュなどに油分が付着する
- サンプルを採取して材料試験に送る場合も
4. シール材の劣化要因とメカニズム
可塑化を含むシール材の劣化は、以下の要因で進行します:
- 紫外線(UV):分子構造を破壊し、劣化促進
- 熱:可塑剤の揮発・移行を促進
- 水分・雨水:可塑剤の溶出を誘発
- 塗膜との化学反応:特に可塑剤が塗装にブリードし、変色・剥離を引き起こす
また、モジュラス(剛性)が経年で変化することで、動きへの追従性が低下し、破断リスクが増します。
5. 可塑化・劣化を防ぐための材料選定
材料選定は可塑化・劣化防止の最重要ポイントです。
推奨される選定ポイント:
- ノンブリードタイプの選定:可塑剤の移行を抑制
- 高耐候性グレードの活用:特に紫外線暴露の多い部位では必須
- 周辺部材との適合性チェック:特に塩ビ・フッ素系・塗装仕上げ面との相性確認が重要
6. 劣化対策と補修時のポイント
劣化したシール材は撤去・打替えが基本です。以下に補修手順を示します。
補修のステップ:
- 既存シール材の撤去(カッター・スクレーパーなどで丁寧に除去)
- 下地処理・清掃(残留可塑剤や汚れの除去)
- プライマー塗布(接着性を高めるために必須)
- 新規シーリング材の充填
- 仕上げと養生(乾燥硬化を確認後に塗装する場合も)
特に再劣化を防ぐには、塗装仕上げとの併用が有効です。
7. 最新動向:高耐久シーリング材の技術革新
近年では、20年超の耐久性を謳う製品や、高耐候・ノンブリード・低モジュラスといった多機能製品が登場しています。
注目の技術:
- フッ素系シーリング材:極めて高い耐候性
- 変成シリコンの進化型:可塑剤レスや低VOC
- 認定制度:JIS A 5758(建築用シーリング材)やJSIAの認定制度が目安に
実際の大規模修繕や改修工事でも、こうした製品の採用事例が増加しています。
8. まとめ:定期的な点検と適切なメンテナンスのすすめ
シール材は「見えないが極めて重要」な防水部材です。以下のような定期点検を推奨します:
チェックリスト例:
- 表面のべたつき・ひび割れ・変色はないか?
- 隣接材料との反応やブリードが発生していないか?
- 打設後10年以内に点検、それ以降は5年ごとが目安
設計段階から可塑化を想定し、適切な製品選定と周辺部材との相性確認を行うことで、長寿命建築の実現に大きく貢献できます。


