RC造建築の外断熱と内断熱の比較設計

RC造建築の外断熱と内断熱の比較設計:本当に性能を左右するのは「位置」の選び方

鉄筋コンクリート(RC)造は強くて耐火性も高く、高層建築や集合住宅で多く採用されます。しかし、熱を通しやすく、一度温まると冷めにくい“蓄熱体”であるため、「夏は暑く冬は寒い」「結露しやすい」といった問題が起こりやすい構造でもあります。
それを解決する鍵が断熱設計です。特に、断熱層を外側に置くか、内側に置くかという選択が、建物性能を大きく左右します。


RC造で断熱を考えるうえで知っておくべき3つの事実

1. RCは熱を通しやすいのに熱をためこむ
→ 夏は日射熱が夜まで残り、冬は冷えた躯体が暖房を奪う。

2. 熱橋(ヒートブリッジ)が発生しやすい
柱・梁・スラブが断熱ラインを貫通し、そこから熱が流れ込む。

3. 結露は“内部”で起こると構造を腐らせる
防湿が不十分な内断熱では、壁の中や躯体内部で結露し、鉄筋腐食の原因になる。

つまり、「断熱材の性能」より「断熱層の位置」が圧倒的に重要なのです。


外断熱の本質:躯体を守り、性能を長期的に維持する

外断熱は、建物全体を外側から断熱材で包み込みます。
その結果……

✅ 躯体が室内温度に保たれ、温度変化による劣化が激減
✅ 柱・梁・スラブを連続して断熱でき、熱橋を根本的に解消
✅ 躯体の蓄熱性を活かせるため、室温が安定し省エネ性が高い
✅ 内部結露のリスクほぼゼロ

つまり外断熱は、「断熱」+「耐久性向上」+「省エネ」を同時に実現できる工法です。
ZEB・BELSなどの高性能建物で採用されやすいのもこのためです。


ではなぜ外断熱が普及しないのか?

  • 設計段階で構造・意匠との調整が必要
  • 施工精度が求められる
  • 慣れた業者が少ない
  • 初期コストが高く見える(実はLCCは安くなることも多い)

「良いけれど難しい」——これが外断熱の現実です。


内断熱の本質:コストと施工性に優れる実務的解

一方で内断熱は、躯体の内側に断熱材を施工します。

✅ 室内側で作業できるので施工が簡単
✅ 足場不要で高層建築やリノベーションにも対応しやすい
✅ 初期コストが安い
✅ 部屋ごとの改修や用途変更に柔軟

しかし……

❗ 躯体が外気にさらされ、蓄熱性が活かせない
❗ 柱・梁が露出し、熱橋になりやすい
❗ 防湿層の欠陥で内部結露のリスクが高い
❗ 躯体の劣化スピードが速くなる可能性

つまり内断熱は、短期的なコストと施工性には優れるが、長期的性能は外断熱に劣るという構造的限界を持っています。


では、どちらを選ぶべきか?

用途・寿命・コスト戦略によって最適解は変わります。

外断熱が向く建物

  • 長期運用(50年以上)
  • 公共施設・オフィス・分譲マンション
  • ZEB・BELS・省エネ重視
  • 躯体の耐久性を守りたい

内断熱が向く建物

  • 初期費用を抑えたい
  • 改修・用途変更が多い(賃貸・店舗)
  • 工期短縮が最優先

複合断熱という選択肢

最近では、外断熱+内断熱を組み合わせて
**「熱橋を防ぎつつコストを抑える」**ハイブリッド設計も増えています。
BIMや熱橋解析によって科学的に配置を最適化することも可能になっています。


最終結論:断熱は“技術”ではなく“戦略”

RC造の断熱をどう設計するかは、
建物の価値・寿命・省エネ・快適性・資産性すべてを左右します。

  • 外断熱=性能・耐久・省エネを最大化する戦略
  • 内断熱=施工性・コスト・柔軟性を重視する戦略
  • 複合断熱=両者のメリットを調整する最適解

大切なのは、
「どちらが優れているか」ではなく「建物にとって何が最適か」を判断できること。

設計者・技術者として問われるのは、
断熱材を選ぶ力ではなく、“断熱戦略”を設計する力です。

それこそが、これからのRC造における本当の断熱設計です。