鉄骨造での連層耐震ブレース設計手法

1. はじめに|連層ブレースの役割と設計上の意義

鉄骨造建築において、耐震ブレースは水平力に抵抗する主要な構造要素の一つです。特に中高層建築では、複数階にわたって連続する「連層ブレース」が採用されることで、建物全体の剛性と耐震性能を高めることができます。
単層ブレースでは階ごとの変形差や応力集中が発生しやすいのに対し、連層ブレースは上下階を一体的に補剛することで、フレーム全体の変形を均等化し、エネルギー吸収性能の向上にも寄与します。
近年では、オフィスビルや集合住宅、病院などの構造設計において、耐震性能とコストバランスを両立する手法として注目されています。


2. 連層ブレース構造の基本原理

連層耐震ブレースは、階をまたいで鉛直方向に連続することで、柱・梁とともにトラス状の骨組みを形成します。
その結果、地震力が作用した際には、上階から下階へ効率的に荷重が伝達され、建物全体で耐力を分担します。
ブレース形式には、X型・K型・V型・倒V型などがありますが、連層化する場合は節点位置での力の流れや床レベルのずれに特に注意が必要です。
例えば、V型や倒V型では層間変形時に床梁へ水平力が集中する傾向があり、梁の剛性や接合部設計が重要なポイントとなります。


3. 設計時に考慮すべき構造要素

連層ブレース設計では、軸力・せん断力・曲げモーメントを正確に評価することが基本です。
特に中間階では、ブレースの軸方向力が上下で異なるため、節点のガセットプレート形状や溶接長の確保が課題となります。
高力ボルト接合を採用する場合は、摩擦接合による応力伝達を確実に行う必要があり、設計段階でのプレート厚・ボルト配置の最適化が不可欠です。
また、床梁や柱脚との剛結条件を誤ると応力集中や座屈リスクが高まるため、接合ディテールの整合性を常に意識することが重要です。


4. 解析手法とモデル化のポイント

連層ブレースを含むフレーム解析では、静的解析と動的解析を使い分けることが求められます。
中小規模の建築では静的地震荷重法が用いられることが多い一方で、連層構造では上層階からの慣性力が連続的に伝達されるため、モード解析や時刻歴応答解析による検証が有効です。
解析モデルでは、節点位置・部材剛性・支持条件を適切に設定することで、実際の挙動を忠実に再現することが可能となります。
さらに、非線形解析による降伏後の安定性評価を行うことで、塑性化領域の拡がりや座屈挙動を事前に把握でき、設計の信頼性が高まります。


5. 座屈・変形制御設計

連層ブレースの設計では、座屈長さの設定が極めて重要です。
中間階をまたぐ場合、ブレースの有効座屈長さは単層時よりも長くなり、耐力低下を招く恐れがあります。
そのため、座屈補剛材を適切に配置し、部材長さを実際の拘束条件に応じて補正する必要があります。
また、座屈拘束ブレース(BRB)を併用することで、弾塑性域でも安定した復元力を維持でき、層間変形角を抑える設計が可能です。
塑性率の制御により、地震時の変形集中を防ぐことが、損傷を最小限に抑える鍵となります。


6. 施工段階での留意点と品質管理

設計でいかに優れたブレース配置をしても、施工精度が伴わなければ期待通りの耐震性能は得られません。
施工時には、柱・梁・ブレースの取付順序を明確にし、ガセットプレートの位置精度を確保することが重要です。
また、現場溶接や高力ボルトの締付管理を徹底することで、応力伝達の確実性を高められます。
連層ブレースでは部材長が長いため、製作・輸送時のたわみや熱変形にも注意が必要です。
設計意図を施工チームへ正確に伝えることで、構造性能と施工合理性の両立が可能となります。


7. 実務での設計事例とシミュレーション結果

中高層オフィスビルにおいて、X型連層ブレースを採用した事例では、従来の単層ブレース構造と比較して層間変形が約20%低減しました。
FEM解析により応力分布を可視化した結果、上層階から下層階へ荷重が均等に分散され、節点部の応力集中が緩和されたことが確認されています。
また、VE(Value Engineering)提案として、一部階のブレースを座屈拘束型に変更することで、構造安全性を保ちつつ鋼材量を約15%削減することができました。
これらの結果は、耐震性能とコストの最適化が両立可能であることを示しています。


8. まとめ|耐震性能と施工合理性を両立する設計戦略

連層耐震ブレースは、鉄骨造の耐震性能を高めるうえで非常に有効な手法です。
設計段階では、解析モデルの精度向上・接合部ディテールの合理化・施工精度の確保を総合的に考慮することが重要です。
また、設計初期からブレース配置を最適化することで、構造コスト削減と耐震安全性の両立が実現します。
今後は、AI解析やBIM連携による自動最適化設計など、より高度なブレース設計支援技術の導入が進むことが期待されます。