RC造におけるクリープと収縮対策設計
目次
はじめに|RC構造におけるクリープと収縮の重要性
鉄筋コンクリート(RC)造は高い耐久性と自由な設計性を兼ね備えた構造形式ですが、長期的には「クリープ」と「収縮」による変形が避けられません。これらの変形は、構造体のたわみや仕上げ材のひび割れ、設備機器との取合い不良などを引き起こす原因となります。特に長期荷重を受ける梁・スラブでは、設計段階からの予測と対策が不可欠です。
本記事では、クリープと収縮の基本メカニズムから設計・施工・解析手法までを体系的に整理し、長期性能を確保するための実務的なポイントを解説します。
クリープと収縮のメカニズム
クリープとは、コンクリートが一定の荷重を受け続けることで、時間の経過とともに変形が進行する現象です。これは、セメント水和物の粘弾性的な性質によって生じ、特に湿度や温度、荷重期間に影響されます。一方の収縮は、乾燥や自己収縮によって生じる体積変化であり、クリープとは独立して発生します。
乾燥収縮は外部からの水分蒸発によって起こり、自己収縮は高性能コンクリートなどで水結合材比が低い場合に顕著になります。さらに、温度応力が重なると、内部応力が複雑化しひび割れのリスクを高めるため、材齢や断面厚なども考慮した設計判断が求められます。
設計段階での考慮ポイント
RC構造における長期変形を適切に評価するには、AIJ「鉄筋コンクリート構造設計指針」やJCIの研究成果を参照し、クリープ係数や収縮ひずみを設計に反映することが重要です。
特にスラブや梁では、長期たわみを予測し、サービス限界状態での許容変形を満たす必要があります。また、プレストレス導入により変形を抑制する方法もありますが、過度な応力集中やひび割れを招かない範囲に留めるべきです。さらに、建物形状や収縮拘束を考慮して、伸縮目地やスリップジョイントを適切に配置することで、変形を吸収し仕上げ精度を維持します。
材料選定によるクリープ・収縮抑制
コンクリートの配合や材料特性を工夫することで、クリープ・収縮の影響を低減できます。高強度コンクリートは弾性係数が高く変形が小さい一方、乾燥収縮や自己収縮が増大しやすいため、混和材や収縮低減剤の併用が効果的です。
フライアッシュやシリカフュームを用いると、水和反応の進行を緩やかにし、体積安定性を改善できます。また、鉄筋比を高めることで拘束効果が増すものの、過剰な拘束は逆にひび割れを誘発する可能性もあるため、バランスの取れた配筋設計が求められます。
施工段階での対策と管理
設計上の配慮と同様に、施工段階での品質管理がクリープ・収縮対策に直結します。特に重要なのが、打設後の養生期間と湿潤管理です。乾燥を早めてしまうと収縮が進行し、初期ひび割れの発生につながります。
また、打継ぎ部や異形部で応力が集中しやすいため、施工順序や打継ぎ面処理を慎重に計画する必要があります。さらに、温度ひび割れとの複合管理も重要で、打設時の外気温や部材温度を把握しながら、初期段階でのひび割れ観察・補修体制を整えることが理想です。
実務における解析・評価手法
近年では、FEM解析や段階施工解析によってクリープ・収縮の影響を数値的に予測する手法が一般化しています。これにより、部材ごとのたわみや応力再配分を可視化し、長期挙動を精度高く評価することが可能です。
また、設計段階での解析結果を、竣工後の実測データでキャリブレーションすることで、今後の設計精度向上につなげる動きも進んでいます。許容変形やひび割れ幅の評価基準を明確にし、サービス性能を維持するための定量的な判断が求められます。
実際の対策事例と設計改善のポイント
実務では、梁やスラブの長期たわみを抑えるために、反り上げ設計(プレカンバー)を採用するケースが多く見られます。また、高層RC建物では壁式構造やスリットの適用により、変形を分散してひび割れを防ぐ工夫がなされています。
床仕上げや外装では、クラック誘発目地をあらかじめ設計に組み込むことで、美観と防水性を確保。設計から施工、そして維持管理までを一体的に考えることが、長期的な性能維持の鍵となります。
まとめ|長期性能を見据えたRC設計へ
クリープと収縮は避けられない現象であるため、重要なのは「予測して制御する」姿勢です。材料選定、構造設計、施工管理、維持管理の各段階が連携することで、長期性能を確実に確保できます。
今後は、BIMやAIによる変形予測、長期モニタリング技術の活用により、より精緻な設計が可能になるでしょう。RC構造の信頼性を高めるためには、経験とデータに基づいた総合的なアプローチが求められます。


