RC造耐震壁のスリット設計と応答制御

RC造建物において、耐震壁は地震力に抵抗する重要な構造要素です。一方で、すべての壁を構造体として強く効かせればよいというわけではありません。柱・梁で構成されるラーメン架構に対して、腰壁・垂れ壁・方立壁などの二次壁が不用意に接続されると、地震時の応力伝達が設計意図と異なり、柱や梁に過大なせん断力が生じることがあります。
そこで重要になるのが、RC造におけるスリット設計です。構造スリットは、壁と柱・梁の一部を意図的に切り離し、建物の剛性や変形性能を適切にコントロールするための設計手法です。単なる「縁切り」ではなく、耐震壁をどこで効かせ、どこで効かせないかを整理するための重要なディテールといえます。
本記事では、RC造耐震壁のスリット設計について、耐震壁と二次壁の違い、構造スリットの目的、応答制御の考え方、施工上の注意点まで、実務者向けにわかりやすく解説します。
目次
1. RC造耐震壁におけるスリット設計とは
RC造耐震壁のスリット設計とは、壁と柱・梁・床などの構造部材との接続関係を調整し、地震時に建物が想定通りに変形・抵抗するように計画する設計です。
RC造では、コンクリートの壁が建物の剛性に大きく影響します。そのため、意匠上設けた壁であっても、構造的には無視できない剛性を持つ場合があります。特に、方立壁・腰壁・垂れ壁・袖壁などが柱や梁に取り付くと、構造計算上は想定していなかった拘束が生じることがあります。
スリット設計では、これらの壁を構造体として扱うのか、非構造壁として扱うのかを明確にし、必要に応じて柱・梁との間にスリットを設けます。これにより、耐震壁として効かせる壁と、二次壁として切り離す壁を整理することができます。
1-1. 耐震壁と二次壁の違い
耐震壁とは、地震時の水平力に抵抗することを目的として設計された構造壁です。柱・梁・床と一体となって建物の剛性と耐力を確保し、地震力を基礎へ伝達する役割を担います。
一方、二次壁とは、主に間仕切り・外壁・開口まわりの納まりなど、意匠上または機能上の目的で設けられる壁です。代表的なものには、腰壁、垂れ壁、方立壁、袖壁などがあります。
ただし、二次壁であってもRCでつくられている以上、一定の剛性を持ちます。柱や梁にしっかり接続されていれば、地震時には構造体の一部のように挙動する可能性があります。そのため、構造計算上「効かせない壁」として扱う場合は、スリットによって架構から切り離す必要があります。
1-2. 構造スリットが必要になる理由
構造スリットが必要になる主な理由は、建物の変形を設計意図に近づけるためです。
RC造建物は、柱・梁・耐震壁の配置によって地震時の力の流れが決まります。ところが、意匠上の二次壁が柱や梁に接続されていると、建物の剛性分布が変化し、設計者が想定した応力状態と異なる挙動を示すことがあります。
例えば、柱の途中に腰壁や垂れ壁が取り付くと、柱の有効な変形長さが短くなり、短柱化が生じます。短柱化した柱は、曲げ変形よりもせん断破壊が先行しやすくなり、耐震上好ましくありません。
また、二次壁が偏った位置に配置されていると、建物全体の剛性バランスが崩れ、ねじれが生じやすくなります。構造スリットは、こうした不利な挙動を避けるために設けられます。
1-3. スリット設計が建物の耐震性能に与える影響
スリット設計は、建物の耐震性能に直接影響します。スリットを設けることで、二次壁による不要な拘束を避け、柱や梁の変形性能を確保できます。一方で、スリットを設ける場所や範囲を誤ると、必要な剛性や耐力まで低下させてしまう可能性があります。
つまり、スリットは「多く入れればよい」というものではありません。耐震壁として機能させるべき壁には適切に力を負担させ、非構造壁として扱う壁は確実に切り離す。この判断が重要です。
耐震性能を高めるためには、建物全体の剛性バランス、応力の流れ、変形性能、施工性を総合的に考慮する必要があります。
2. RC造でスリットを設ける目的
RC造でスリットを設ける目的は、主に柱・梁への不要な拘束を防ぎ、建物の応答を設計上コントロールしやすくすることです。
地震時には、建物全体が水平力を受けて変形します。このとき、柱・梁・壁がどのように力を分担するかによって、損傷の発生位置や程度が変わります。スリットは、この力の伝達経路を整理するための重要な手段です。
2-1. 柱・梁への不要な拘束を避ける
二次壁が柱や梁に密着していると、地震時に柱・梁の変形を妨げることがあります。特に、方立壁や腰壁が柱に取り付くと、柱の一部が壁によって拘束され、想定外の応力が発生しやすくなります。
構造スリットを設けることで、二次壁と柱・梁の間に隙間をつくり、地震時の変形を吸収しやすくします。これにより、柱・梁が本来の構造部材として働きやすくなります。
2-2. 短柱化によるせん断破壊を防ぐ
RC造で特に注意すべき現象の一つが、短柱化です。短柱化とは、腰壁や垂れ壁などによって柱の自由に変形できる部分が短くなり、柱が短い部材として挙動する現象です。
短柱化した柱は、変形能力が低下し、せん断破壊を起こしやすくなります。せん断破壊は急激で脆性的な破壊につながるため、耐震設計上はできるだけ避けるべき破壊形式です。
柱際にスリットを設けることで、腰壁や垂れ壁による柱の拘束を緩和し、短柱化を防ぐことができます。
2-3. 壁の剛性を調整し、応答をコントロールする
RC造の壁は、建物の剛性に大きく影響します。壁が多い部分は硬くなり、壁が少ない部分は柔らかくなります。この剛性の偏りが大きいと、地震時に特定の階や方向へ変形が集中することがあります。
スリット設計は、壁の効き方を調整することで、建物全体の応答をコントロールする役割を持ちます。耐震壁として働かせる壁、二次壁として切り離す壁を整理することで、建物全体の剛性バランスを整えやすくなります。
2-4. 非構造壁・方立壁・腰壁・垂れ壁の扱い
非構造壁として扱う場合でも、RC壁である以上、完全に構造的な影響を無視できるとは限りません。方立壁、腰壁、垂れ壁などは、柱・梁に接続されているか、スリットで切り離されているかによって地震時の挙動が大きく変わります。
特に方立壁は、開口部の両側に配置されることが多く、柱や梁の剛性に影響を与えやすい部位です。設計段階で、これらの壁を構造要素として評価するのか、スリットによって非構造化するのかを明確にしておく必要があります。
3. 耐震壁とスリットの基本的な考え方
耐震壁とスリットの設計では、「壁を効かせるか、効かせないか」を明確にすることが基本です。
RC造では、壁を設けることで建物の水平剛性を高めることができます。しかし、壁の配置が偏っていたり、二次壁が不適切に接続されていたりすると、地震時に不利な応力集中が生じることがあります。
そのため、構造設計では、耐震壁として計算に含める壁と、二次壁として切り離す壁を明確に区別する必要があります。
3-1. 耐震壁として効かせる壁・効かせない壁の判断
耐震壁として効かせる壁は、構造計算上、地震力を負担する壁として評価されます。壁厚、配筋、開口の有無、柱・梁との接続、基礎への力の伝達などを含めて設計されます。
一方、効かせない壁は、建物の主要な耐震要素としては評価しません。その場合、柱・梁との間にスリットを設け、地震時に架構へ大きな力を伝えないようにします。
この判断が曖昧なままだと、構造計算では効かせていないのに、実際の建物では壁が力を負担してしまうという不整合が生じます。これは、地震時の損傷予測を難しくする原因になります。
3-2. 完全スリットと部分スリットの違い
完全スリットとは、壁と柱・梁の間を明確に切り離し、構造的な力の伝達を極力避けるスリットです。二次壁を非構造壁として扱う場合に用いられます。
部分スリットとは、壁の一部を切り離しながらも、一定の接続を残す考え方です。完全に独立させるのではなく、必要に応じて変形や力の伝達を制御する場合に検討されます。
ただし、部分スリットは構造的な評価が難しくなることがあります。どの程度の剛性や耐力を見込むのか、施工誤差によって挙動が変わらないかを慎重に確認する必要があります。
3-3. 三方スリット・二方スリットの使い分け
三方スリットは、壁の左右と上部など、三方向にスリットを設ける方法です。壁を主体架構から切り離し、非構造壁として扱いやすくなります。
二方スリットは、壁の一部を架構から切り離す方法です。開口まわりや壁の配置条件によって採用されることがあります。
どちらを採用するかは、壁の役割、架構との接続条件、施工性、仕上げ、耐火・遮音・防水性能などを踏まえて判断します。単に図面上で線を入れるだけでなく、実際にどのような力の伝達を許容するのかを考えることが重要です。
3-4. 開口部まわりのスリット計画
RC造では、窓や出入口などの開口部まわりに方立壁、腰壁、垂れ壁が発生します。これらの壁が柱・梁と一体化すると、開口部まわりに応力が集中することがあります。
開口部まわりのスリット計画では、開口補強筋との関係、サッシまわりの納まり、防水処理、仕上げ材の取り合いも重要です。構造上は切り離したつもりでも、仕上げモルタルやシーリング、充填材によってスリットが実質的に埋まってしまうと、設計意図と異なる挙動になる可能性があります。
4. スリット設計で確認すべき構造上のポイント
スリット設計では、単に壁を切り離すだけでなく、建物全体の構造性能に与える影響を確認する必要があります。特に、層剛性、偏心率、ねじれ、柱・梁の応力負担、保有水平耐力、変形追従性などが重要です。
4-1. 層剛性・偏心率・ねじれへの影響
壁の配置は、建物の層剛性に大きく影響します。ある階だけ壁が多い、ある方向だけ壁が偏っていると、その部分の剛性が高くなり、地震時の変形が他の階や他の方向に集中することがあります。
また、剛性の中心と質量の中心がずれると、建物にねじれが生じやすくなります。スリットによって二次壁の剛性を除外する場合、偏心率やねじれ挙動がどのように変わるかを確認する必要があります。
4-2. 柱・梁・壁の応力負担の変化
スリットを設けると、壁が負担していた力が柱や梁へ移る場合があります。逆に、スリットを設けない場合は、二次壁が想定以上に力を負担し、ひび割れやせん断破壊を起こす可能性があります。
重要なのは、どの部材にどの程度の応力を負担させるのかを設計段階で明確にすることです。スリットの有無は、柱・梁・壁の応力分担を大きく変えるため、構造計算モデルとの整合が欠かせません。
4-3. 保有水平耐力計算との関係
保有水平耐力計算では、建物が地震時にどの程度の水平力に耐えられるかを評価します。このとき、耐震壁として評価する壁と、二次壁として除外する壁の区分が重要になります。
スリットを設けた二次壁を構造要素として見込まない場合、建物の耐力や剛性はその前提で評価されます。一方、実際の施工でスリットが不完全だった場合、計算上は存在しない剛性が実建物に生じることになり、想定外の応力集中を招くおそれがあります。
4-4. 地震時の変形追従性とクリアランス
スリットには、地震時の層間変形に追従できるだけのクリアランスが必要です。スリット幅が不足していると、大地震時に壁と柱・梁が接触し、想定外の力が伝達される可能性があります。
また、スリット部に充填する材料には、変形追従性が求められます。硬すぎる材料で埋めてしまうと、スリットとしての機能が低下します。設計時には、想定される変形量、使用材料、施工精度を踏まえてスリット幅を検討する必要があります。
4-5. 振れ止め筋・補強筋の考え方
スリットを設けた壁でも、転倒防止や面外方向の安定性を確保するために、振れ止め筋や補強筋が設けられることがあります。
ただし、振れ止め筋の入れ方によっては、壁と架構の間に力が伝達され、スリットの効果が低下することがあります。振れ止め筋は必要な安全性を確保する一方で、構造的な拘束を過度に生じさせないように計画することが重要です。
5. 応答制御の観点から見るスリット設計
スリット設計は、単に不利な応力を避けるだけでなく、建物の地震応答を制御するための手段としても考えることができます。
応答制御とは、地震時に建物がどのように揺れ、どこに変形や損傷が生じるかを設計上コントロールする考え方です。RC造では、耐震壁や二次壁の剛性が応答に大きく影響するため、スリット設計の良し悪しが建物の損傷状態に直結します。
5-1. 建物の剛性バランスを整える
スリット設計の大きな役割は、建物全体の剛性バランスを整えることです。耐震壁を適切に配置し、不要な二次壁の剛性を切り離すことで、地震時の変形を分散させやすくなります。
剛性バランスが悪い建物では、特定の階や方向に損傷が集中することがあります。スリットによって二次壁の影響を調整することで、建物全体として安定した耐震性能を確保しやすくなります。
5-2. 特定階への変形集中を防ぐ
RC造建物では、ピロティ階や壁量の少ない階に変形が集中しやすい場合があります。上階に壁が多く、下階に壁が少ない建物では、下階だけが大きく変形する危険性があります。
スリット設計では、各階の壁の効き方を整理し、層剛性の急激な変化を抑えることが重要です。壁を効かせすぎる階と、壁が少ない階との差が大きくならないように、建物全体で剛性分布を確認する必要があります。
5-3. 耐震壁を効かせすぎるリスク
耐震壁は地震力に抵抗する重要な部材ですが、効かせすぎることで問題が生じる場合もあります。特定の位置に耐震壁が集中すると、その部分だけが硬くなり、建物全体の変形バランスが崩れます。
また、耐震壁が強く働くことで、周辺の柱・梁に大きな応力が流れることもあります。耐震壁は多ければよいのではなく、建物全体の構造計画の中で適切に配置することが重要です。
5-4. 二次壁を活用した応答低減の考え方
一般的には、二次壁は構造スリットによって主体架構から切り離すことが多いですが、近年では二次壁を積極的に活用して応答低減を図る考え方もあります。
例えば、方立壁を完全に不要なものとして扱うのではなく、制震部材と組み合わせることで、地震エネルギーを吸収する要素として活用する方法があります。この場合、単なるスリット設計ではなく、壁・架構・制震部材を一体的に評価する必要があります。
5-5. 制震部材・ダンパーとの組み合わせ
制震部材やダンパーを用いる場合、地震時のエネルギーを吸収し、建物の応答を低減することを目的とします。RC造の方立壁や開口まわりの壁を利用してダンパーを配置することで、架構の変形に応じた制震効果を期待できる場合があります。
ただし、制震部材を組み合わせる場合は、通常の構造スリットとは考え方が異なります。壁をどの程度変形させ、ダンパーにどのように力を伝えるかを明確にし、解析モデル上でも適切に評価する必要があります。
6. スリット設計と耐震性能評価
スリット設計は、耐震性能評価にも大きく関係します。スリットの有無によって、解析モデル、剛性評価、応力分布、損傷予測が変わるためです。
設計図上では小さな納まりに見えるスリットでも、構造解析上は建物全体の挙動に影響する重要な要素です。
6-1. スリットの有無で変わる解析モデル
構造計算では、壁を構造要素としてモデル化するか、非構造要素として扱うかを判断します。スリットがある場合は、壁と柱・梁の接続条件を切り離して考えることができます。
一方、スリットがない場合は、二次壁であっても架構に影響する可能性があるため、剛性や耐力への影響を無視できない場合があります。解析モデルと実際の納まりが一致していなければ、計算結果と実建物の挙動にズレが生じます。
6-2. 剛床仮定・壁剛性評価との関係
RC造建物の解析では、床を剛床として扱うことが多くあります。剛床仮定では、各階の床が一体となって水平変位すると考えますが、壁の剛性分布が偏っていると、ねじれや局部的な応力集中が問題になります。
スリットを設けることで、壁の剛性評価が変わり、建物全体の応答も変化します。特に、平面形状が複雑な建物や開口部が多い建物では、壁のモデル化を慎重に行う必要があります。
6-3. 静的解析と地震応答解析で見る違い
静的解析では、建物に一定の水平力を与えて応力や変形を評価します。一方、地震応答解析では、地震波に対する建物の時間的な揺れ方を評価します。
スリット設計は、静的な剛性評価だけでなく、地震時の動的な応答にも影響します。二次壁をどう扱うかによって、固有周期、層間変形角、応答加速度、損傷分布などが変わる可能性があります。
高度な設計や制震構造を検討する場合は、静的な耐力だけでなく、地震応答の観点からスリットや壁の効き方を確認することが重要です。
6-4. 既存RC建物の耐震診断・耐震改修での扱い
既存RC建物の耐震診断では、二次壁の影響が重要になることがあります。既存建物では、設計図通りにスリットが施工されていない、改修工事でスリットが埋められている、仕上げ材によって壁と柱が一体化しているといったケースもあります。
耐震改修では、既存の壁を耐震要素として活用する場合もあれば、逆にスリットを新設して柱の短柱化を防ぐ場合もあります。既存建物では、図面だけでなく現地調査によって実際の納まりを確認することが不可欠です。
7. 施工面で注意すべきスリットの納まり
スリット設計は、構造図に記載すれば終わりではありません。現場で正しく施工されて初めて機能します。
スリットは、型枠、鉄筋、コンクリート打設、仕上げ、防水、シーリング、耐火処理など、多くの工種と関係します。そのため、設計意図を施工図に正確に反映し、現場で共有することが重要です。
7-1. スリット幅の確保と施工誤差
スリット幅は、地震時の変形を吸収するために必要な寸法を確保しなければなりません。図面上では十分な幅があっても、施工誤差や仕上げ厚によって実際のクリアランスが不足することがあります。
特に、柱際や梁下のスリットは、型枠や配筋との取り合いが複雑になりやすいため、施工図段階で詳細に確認する必要があります。
7-2. 型枠・鉄筋・コンクリート打設時の注意点
スリット部には、スリット材や目地材を正しい位置に設置する必要があります。型枠の固定が不十分だと、コンクリート打設時にスリット材がずれたり、変形したりすることがあります。
また、鉄筋がスリットをまたいで不用意に配置されると、壁と柱・梁が構造的につながってしまう可能性があります。振れ止め筋や補強筋が必要な場合でも、設計意図に沿った配置になっているかを確認することが重要です。
7-3. 防水・遮音・耐火性能との両立
スリット部は、構造的には切り離したい部分ですが、建築性能上は防水性、遮音性、耐火性を確保する必要があります。外壁まわりのスリットでは、雨水の浸入を防ぐ納まりが重要です。
また、共同住宅やホテルなどでは、遮音性能も求められます。耐火区画に関わる部分では、スリット部の耐火処理も必要になります。構造性能だけでなく、建築性能との両立を考えることが実務上のポイントです。
7-4. 仕上げ材のひび割れ防止
スリット部は、地震時や温度変化によって相対変位が生じやすい部分です。そのため、仕上げ材を連続して施工すると、ひび割れが発生することがあります。
仕上げ材には、スリット位置に合わせて目地を設ける、シーリング処理を行う、変形追従性のある材料を用いるなどの配慮が必要です。構造スリットの位置と仕上げ目地の位置を整合させることが、ひび割れ防止につながります。
7-5. 施工後にスリットが埋まるリスク
現場で起こりやすい問題の一つが、施工後にスリットが実質的に埋まってしまうケースです。モルタル、シーリング材、断熱材、仕上げ材などが硬化して壁と柱・梁をつないでしまうと、スリット本来の機能が失われます。
スリットは「空いていればよい」のではなく、地震時に変形を許容できる状態で維持されることが重要です。施工後の確認では、スリット材の位置、充填材の種類、仕上げとの取り合いをチェックする必要があります。
8. スリット設計で起こりやすいトラブル
スリット設計では、設計図・施工図・現場施工の間で不整合が起こりやすいです。特に、意匠、構造、設備、施工の各担当者がそれぞれ別の視点で図面を作成するため、スリットの位置や意味が共有されていないとトラブルにつながります。
8-1. 意匠図と構造図の不整合
意匠図では壁が連続して描かれている一方で、構造図ではスリットが必要とされているケースがあります。逆に、意匠上は目地として扱っている部分が、構造上のスリットとしては不十分な場合もあります。
スリットは意匠上の見た目だけでなく、構造性能に関わる重要な納まりです。意匠図、構造図、施工図で位置・幅・材料・仕上げを整合させる必要があります。
8-2. 設備配管・開口との干渉
スリット部の近くに設備配管、スリーブ、ダクト開口などがあると、補強筋やスリット材と干渉することがあります。特に、開口部まわりでは構造補強と設備ルートが重なりやすいため注意が必要です。
施工段階でスリット位置を変更すると、構造計算上の前提が変わる場合があります。設備との干渉が予想される場合は、早い段階で意匠・構造・設備の調整を行うことが重要です。
8-3. 現場でスリット位置が変更されるケース
現場では、型枠の都合、配筋の納まり、開口位置の調整などにより、スリット位置を変更したくなる場面があります。しかし、構造スリットの位置変更は、建物の応力伝達や剛性評価に影響する可能性があります。
軽微な変更に見えても、構造上は重要な意味を持つことがあります。現場判断だけで変更せず、必ず構造設計者へ確認することが必要です。
8-4. スリット材の施工不良
スリット材が正しい位置に設置されていない、打設時にずれている、スリット幅が不足しているといった施工不良も起こりやすいポイントです。
特にコンクリート打設前の確認が重要です。打設後は内部の状態を確認しにくくなるため、配筋検査や型枠検査の段階で、スリット材の位置、固定状況、周辺配筋を確認しておく必要があります。
8-5. 検査時に指摘されやすいポイント
検査時には、スリット位置、スリット幅、スリット材の有無、仕上げ目地との整合、補強筋の配置などが確認対象になります。
また、設計図と施工図で表現が異なる場合や、構造スリットなのか意匠目地なのかが不明確な場合も指摘につながります。図面上でスリットの目的を明確にし、現場でも共有しておくことが大切です。
9. 実務で使えるスリット設計のチェックリスト
RC造のスリット設計では、構造計算、図面整合、施工性、建築性能を総合的に確認する必要があります。以下のチェック項目を押さえておくことで、設計・施工段階での不整合を減らすことができます。
9-1. 構造計算上の壁の扱いを確認する
まず確認すべきことは、その壁が構造計算上どのように扱われているかです。耐震壁として評価しているのか、二次壁として非構造扱いにしているのかを明確にします。
構造計算で効かせていない壁が、実際には柱・梁と一体化している場合、設計上の前提と実建物の挙動が異なります。壁の扱いは、構造図だけでなく意匠図・施工図にも反映する必要があります。
9-2. 柱・梁への拘束条件を確認する
スリットによって、柱・梁への拘束をどの程度避けるのかを確認します。柱際、梁下、壁上部、開口部まわりなど、どの部分を切り離すのかを明確にすることが重要です。
特に、腰壁や垂れ壁が柱に接する部分では、短柱化を防ぐためのスリットが適切に設けられているかを確認します。
9-3. 必要なスリット幅を確認する
スリット幅は、地震時の変形量、施工誤差、仕上げ厚、使用材料を考慮して決定します。幅が不足すると、大地震時に壁と柱・梁が接触し、想定外の応力が発生する可能性があります。
設計図の寸法だけでなく、施工図上で実際に確保できるかを確認することが重要です。
9-4. 開口部補強との整合を確認する
開口部まわりでは、スリットと補強筋の関係を確認する必要があります。補強筋がスリットをまたいで配置されると、壁と架構がつながってしまう場合があります。
一方で、開口部まわりのひび割れや局部破壊を防ぐためには、適切な補強も必要です。スリットによる切り離しと、開口補強のバランスを取ることが重要です。
9-5. 意匠・構造・施工図で整合を取る
最後に重要なのが、図面間の整合です。意匠図、構造図、施工図、設備図でスリット位置や開口位置がずれていると、現場で判断に迷う原因になります。
スリットは、構造上の意味を持つ納まりです。図面上で明確に表現し、必要に応じて詳細図や特記仕様に記載することで、施工ミスを防ぐことができます。
10. まとめ|RC造耐震壁のスリット設計は「切る」だけでなく「効かせ方」を設計する
RC造耐震壁のスリット設計は、壁を単に切り離すためのものではありません。耐震壁として効かせる壁、二次壁として切り離す壁、応答制御に活用する壁を整理し、建物全体の耐震性能を設計意図に近づけるための重要な技術です。
10-1. スリット設計は耐震性能と施工品質の両方に関わる
スリット設計は、構造計算上の話だけでなく、現場施工の品質にも大きく関係します。正しく設計されていても、施工段階でスリット幅が不足したり、スリット材がずれたり、仕上げ材で埋まってしまったりすれば、本来の機能を発揮できません。
設計と施工の両面から、スリットの目的を共有することが重要です。
10-2. 応答制御の視点を持つことで設計精度が高まる
スリット設計では、柱・梁への不要な拘束を避けるだけでなく、建物全体の応答をどう制御するかという視点が重要です。
耐震壁の配置、二次壁の扱い、剛性バランス、層間変形、ねじれ、制震部材との組み合わせを総合的に考えることで、より合理的な耐震設計につながります。
10-3. 設計段階から施工段階まで一貫した確認が重要
RC造のスリット設計では、設計段階での構造判断、施工図での納まり確認、現場での施工精度管理が一体となって初めて機能します。
特に、意匠・構造・設備・施工の各図面でスリット位置を整合させることが重要です。構造スリットを単なる目地として扱うのではなく、建物の耐震性能を支える重要な設計要素として捉えることが、RC造建物の安全性と品質向上につながります。