建設実務通信

鉄骨造建物における屋根ブレース配置設計

はじめに

鉄骨造建物では、柱・梁・鉛直ブレースだけでなく、屋根面に配置するブレース計画も構造安全性に大きく関わります。特に工場、倉庫、体育館、店舗、車庫などの大空間建築では、屋根面が広く、水平力の伝達経路が長くなるため、屋根ブレースの配置が不適切だと、建物全体の変形や応力集中につながることがあります。

屋根ブレースは、単に屋根を補強する部材ではありません。屋根面に作用する地震力や風荷重を受け、鉛直ブレースや柱梁フレームへ確実に伝達するための水平構面を形成する役割があります。そのため、屋根ブレースの配置設計では、建物全体の力の流れを理解したうえで、構造計画・意匠計画・設備計画・施工性を一体で検討することが重要です。

屋根ブレースの基本的な役割

鉄骨造の屋根面は、RC造の床スラブのように面全体で高い剛性を持つとは限りません。折板屋根や軽量屋根材だけでは、地震時や強風時に必要な水平剛性を十分に確保できない場合があります。

そこで、屋根面にブレースを配置し、屋根面を水平構面として機能させます。屋根ブレースの主な役割は、次のとおりです。

1つ目は、地震時に屋根面へ作用する水平力を鉛直ブレース構面へ伝えることです。屋根面で発生した力を、建物の耐震要素まで無理なく流すことで、建物全体が一体として抵抗しやすくなります。

2つ目は、風荷重に対する屋根面の変形を抑えることです。特に妻面や外壁面から受ける風圧力は、屋根面を介して耐力要素へ伝達されるため、屋根ブレースの配置が重要になります。

3つ目は、柱頭部や梁の横移動を抑えることです。大スパンの鉄骨造では、柱頭や梁端部が水平移動しやすくなるため、屋根ブレースによって架構全体の安定性を高める必要があります。

屋根ブレース配置で最初に考えるべきこと

屋根ブレースの配置設計では、最初に「力をどこから受け、どこへ流すのか」を整理します。屋根面に生じた水平力は、屋根ブレースを通じて、鉛直ブレース、耐震フレーム、柱脚、基礎へと伝達されます。

この流れが途中で途切れると、屋根ブレースを入れていても構造的には十分に機能しません。たとえば、屋根ブレースは配置されていても、その力を受ける梁の軸剛性が不足している場合、鉛直ブレースまで力が伝わりにくくなります。また、鉛直ブレース構面から離れた位置に屋根ブレースを偏って配置すると、一部のブレースに応力が集中するおそれがあります。

そのため、屋根ブレースは単体で考えるのではなく、周辺梁、母屋、柱、鉛直ブレース、接合部まで含めて計画することが大切です。

鉛直ブレースとの位置関係を整える

屋根ブレース配置で特に重要なのが、鉛直ブレースとの連続性です。屋根面で受けた水平力は、最終的に鉛直ブレース構面へ伝える必要があります。そのため、屋根ブレースは鉛直ブレースのある通りに向かって、力が自然に流れるように配置します。

理想的には、屋根ブレースと鉛直ブレースが同じ通り、または力を伝達しやすい位置関係になるように計画します。鉛直ブレースが建物の端部にしかない場合、屋根面中央部の水平力を端部まで伝える必要があるため、屋根ブレースと周辺梁には十分な剛性が求められます。

一方で、鉛直ブレースが少なすぎると、屋根面ブレースに大きな軸力が発生しやすくなります。特に建物の平面が細長い場合や、屋根面積が大きい場合は、鉛直ブレースの配置数や位置も含めて検討する必要があります。

屋根面全体のバランスを意識する

屋根ブレースは、建物の片側だけに偏って配置するのではなく、平面的なバランスを考慮して配置します。耐震要素やブレースの配置に偏りがあると、地震時に建物がねじれるように変形する可能性があります。

特に、L字型や凹凸のある平面、片側に大きな開口がある建物、屋根面にトップライトや設備開口が多い建物では注意が必要です。屋根面の一部だけが強く、別の部分が弱い状態になると、水平力が均等に伝わらず、局部的な変形や接合部への負担が大きくなります。

屋根ブレースは、建物全体を一体化させるための部材です。そのため、配置計画では、屋根面全体の剛性バランス、鉛直ブレースとの関係、建物の重心と剛心の関係を確認しながら進めることが重要です。

X形ブレースと片流れ配置の考え方

屋根ブレースには、X形に配置する方法や、片方向に斜材を配置する方法があります。X形ブレースは、引張方向に働くブレースを組み合わせることで、地震力や風荷重の作用方向が変わっても抵抗しやすい配置です。一般的な鉄骨造の屋根面では、X形ブレースが採用されることが多くあります。

ただし、すべてのスパンに機械的にX形ブレースを入れればよいわけではありません。ブレースが多すぎると、屋根設備、ダクト、天井下地、点検通路、照明計画などと干渉しやすくなります。また、施工時の建方順序や仮設計画にも影響します。

一方、片流れのブレース配置は、部材数を抑えやすい反面、荷重方向によって力の流れや変形性状が変わる可能性があります。採用する場合は、構造計算上の成立性だけでなく、接合部や周辺梁に生じる軸力まで確認することが大切です。

大スパン建物での注意点

工場や倉庫、体育館のような大スパン建物では、屋根面が広く、柱の本数も少なくなる傾向があります。このような建物では、屋根ブレースの負担が大きくなりやすく、配置計画の良し悪しが建物全体の剛性に影響します。

大スパン建物では、屋根面を一体の剛い面として扱えるかどうかを慎重に判断する必要があります。屋根ブレースや周辺梁の剛性が不足している場合、屋根面が変形し、想定した耐力要素へ水平力が伝わらないことがあります。

また、山形屋根やアーチ形状の屋根では、屋根形状によって柱頭部に水平力が生じる場合があります。見た目には単純な屋根でも、構造的にはスラスト力や軸力の伝達を考慮しなければならない場合があるため、屋根勾配や架構形式に応じたモデル化が必要です。

屋根開口・設備との取り合い

屋根面には、トップライト、排煙設備、換気設備、太陽光パネル、空調室外機、メンテナンス通路などが設けられることがあります。これらの開口や設備は、屋根ブレースの配置に影響します。

特にトップライトや大型設備開口がある場合、ブレースを配置したい位置に部材を通せないことがあります。その結果、ブレース配置が偏ったり、力の流れが遠回りになったりする可能性があります。

このような場合は、開口の周囲に補強梁を設ける、ブレース位置を調整する、別の通りで水平力を受けるなど、構造と意匠・設備を早い段階で調整することが重要です。後から設備計画が変更されると、屋根ブレースの再検討が必要になることもあります。

接合部設計の重要性

屋根ブレースは、部材そのものの断面だけでなく、接合部の設計が非常に重要です。ブレースに発生した軸力は、ガセットプレート、ボルト、溶接部、梁端部を通じて周辺部材へ伝達されます。

ブレース材の耐力が十分でも、接合部の耐力や剛性が不足していれば、設計通りの性能は期待できません。特に、細い丸鋼ブレースやターンバックル付きブレースを用いる場合は、引張力の伝達、ねじ部の強度、取付角度、施工時の張力管理に注意が必要です。

また、ブレースが取り付く梁には、曲げだけでなく軸力が生じる場合があります。構造計算では、屋根ブレースから伝わる力によって、梁や柱にどのような応力が追加されるかを確認する必要があります。

施工性を考慮した配置計画

屋根ブレースは、構造的に合理的であるだけでなく、施工しやすい配置であることも重要です。ブレースが複雑に交差しすぎると、建方時の作業性が悪くなり、ボルト締めや溶接作業の品質確保が難しくなることがあります。

また、屋根ブレースは高所作業になるため、安全な作業床や仮設計画との整合も必要です。施工時にブレースを後付けしにくい位置に配置すると、現場での納まり変更や施工精度の低下につながる可能性があります。

設計段階では、鉄骨製作図、建方順序、屋根材施工、設備工事との取り合いを確認しながら、無理のない配置とすることが望まれます。

設計時の確認ポイント

鉄骨造建物の屋根ブレース配置設計では、次の点を確認することが重要です。

まず、屋根面の水平力がどの耐力要素へ伝達されるかを明確にします。次に、屋根ブレースと鉛直ブレースの位置関係を確認し、力の流れが途切れないようにします。

さらに、屋根面全体の剛性バランスを確認し、ブレース配置が偏っていないかを検討します。大スパン建物や細長い建物では、屋根面の変形を考慮した解析が必要になる場合があります。

また、ブレース材だけでなく、ガセットプレート、ボルト、溶接部、周辺梁の耐力も確認します。設備開口や屋根上設備がある場合は、構造計画と設備計画の整合を早い段階で取ることが大切です。

まとめ

鉄骨造建物における屋根ブレース配置設計は、屋根面を単に補強する作業ではなく、建物全体の水平力伝達経路を整える構造計画です。屋根ブレースは、地震力や風荷重を鉛直ブレース構面へ伝達し、屋根面の変形を抑え、柱頭部や梁の安定性を高める役割を担います。

配置計画では、鉛直ブレースとの連続性、屋根面全体の剛性バランス、周辺梁の軸剛性、接合部の耐力、設備開口との取り合い、施工性を総合的に検討する必要があります。

特に大スパン建物や細長い平面の建物では、屋根面を安易に剛床とみなすのではなく、実際の力の流れや変形性状を確認したうえで設計することが重要です。屋根ブレースを適切に配置することで、鉄骨造建物の耐震性・耐風性・施工性を高め、長期的に安定した構造性能を確保しやすくなります。

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