建設実務通信

能登半島地震の建築物被害を詳細分析―「地震後も使える建物」へ、設備を含めた実施設計の重要性

業界ニュース

国土交通省国土技術政策総合研究所と国立研究開発法人建築研究所は2026年9月7日、「令和6年能登半島地震建築物被害調査等報告」を公開しました。2024年10月に公表された速報以降の調査・分析結果を取りまとめたもので、木造建築物、鉄筋コンクリート造等建築物、火災被害に加え、建築物の地震後継続使用性に関わる建築設備の被害についても詳細な調査結果が収録されています。

今回の報告では、木造建築物について平成12年基準で全壊した住宅や新耐震基準で倒壊した住宅の構造的特徴、耐震補強された建築物、住宅性能表示・長期優良住宅の被害などを分析しています。RC造等については、地震によって転倒・沈下・傾斜した建築物を対象に、上部構造だけでなく基礎・地盤まで含めた詳細調査と解析が行われました。

「倒壊しない」だけでなく地震後の継続使用も設計課題に

建築物の地震対策では、柱・梁・耐力壁などの構造安全性が基本となります。一方、今回の報告書では「建築物の地震後継続使用性に関する建築設備の被害調査」が独立した調査項目として取りまとめられています。

建物の構造躯体に大きな被害がなくても、給排水、空調、電気などの設備が使用できなければ、建物としての機能を維持できない場合があります。

特に庁舎、病院、福祉施設、共同住宅などでは、地震後に建物を使用できるかどうかが復旧や生活継続に直接影響します。

実施設計では構造安全性だけを個別に考えるのではなく、設備機器の配置、配管・ダクト・配線ルート、支持方法、建築部材との取り合いなどを含めて建物全体を確認することが重要になります。

設備図と意匠図の整合確認がより重要に

建築設備は、建築図面のさまざまな部分と関係します。

例えば設備配管を通すために壁や床へ開口を設ける場合には、構造躯体、防火区画、仕上げ、点検スペースなどとの調整が必要です。

天井内では、空調ダクト、配管、電気配線、照明、天井下地などが同じ空間に集中します。機器の配置だけでなく、支持方法やメンテナンススペースを含めて検討しなければ、施工段階で干渉が判明する可能性があります。

そのため実施設計では、平面図や天井伏図と設備図を個別に作成するだけではなく、必要に応じて図面を重ね合わせ、設備ルートや機器位置が建築計画と整合しているかを確認することが重要です。

設備シャフト、機械室、EPS、PSなどについても、必要寸法や点検性を早い段階で確認しておくことで、後工程での設計変更を減らしやすくなります。

設備機器周辺は断面・詳細図で納まりを整理

設備機器と建築部材の取り合いは、平面図だけでは十分に表現できない場合があります。

屋上設備であれば、設備基礎、防水層、配管立上り、架台などの関係を整理する必要があります。天井内の設備では、天井高さと梁下、ダクト、配管、照明器具などの位置関係を確認する必要があります。

こうした部分では、断面詳細図や部分詳細図を作成して高さ方向の関係を明確にすることが有効です。

また、設備機器を更新する可能性がある建物では、点検口、搬出入経路、交換スペースなども設計条件になります。

地震後の継続使用まで考える場合には、「設備が設置できるか」だけでなく、「地震後も機能を維持しやすいか」「損傷した場合に点検・復旧しやすいか」という視点も必要になります。

RC造では上部構造だけでなく基礎・地盤まで詳細分析

今回の報告書では、転倒や沈下などの被害を受けたRC造等建築物について、上部構造、基礎、地盤を詳細に調査し、転倒した建築物について基礎・地盤の解析も行っています。輪島市内では地盤調査も実施されました。

これは建築物の被害を、地上部分だけで判断できないことを示す重要な資料です。

実施設計図面でも、意匠図、構造図、基礎伏図、配置図などは別々の図面として作成されますが、実際の建築物では相互に関係しています。

配置や建物レベルを変更すれば、基礎計画や外構との取り合いに影響することがあります。構造側の基礎形状が変更されれば、ピット、設備配管、床レベルなどの調整が必要になる場合もあります。

図面作成を分担している案件では、意匠・構造・設備それぞれの最新版を共有し、変更内容が関連図面へ反映されているかを確認することが重要です。

既存建物の耐震改修では現況図の精度が設計の土台に

今回の報告では、耐震補強された建築物の被害についても分析されています。

既存建物の耐震改修では、新築とは異なり、現在の建物がどのような状態になっているのかを正確に把握する工程が必要です。

古い建築物では、竣工図が紙図面や青焼き図面で残っていることもあります。また、過去の改修内容が図面へ反映されておらず、既存図と現況が一致していないケースも考えられます。

そのため、既存図をCAD化したうえで現地調査結果を反映し、現況平面図、立面図、断面図などを整備してから改修設計へ進むことが重要です。

耐震補強部材を追加する場合には、既存の建具、設備配管、天井、内装などとの干渉も確認する必要があります。

補強計画だけでなく、それに伴って変更が必要になる建築・設備図面まで整理することが、実施設計段階での手戻り防止につながります。

災害後の使用まで見据えた図面整合管理へ

今回公開された報告書は、2024年10月の速報からさらに調査・分析を進め、木造、RC造等、火災、建築設備を含む建築物被害を体系的に整理したものです。特に、地震後継続使用性の観点から建築設備の被害が独立して整理されたことは、今後の建築設計を考えるうえで参考になります。

実施設計では、構造、意匠、設備を別々の図面として完成させるだけではなく、それぞれの設計情報が整合していることが重要です。

平面図、断面図、天井伏図、各種詳細図、構造図、設備図を横断して確認し、設計変更が発生した場合には影響する図面をまとめて更新する必要があります。

建築物に求められる耐震性能を「倒壊を防ぐ」という観点だけでなく、「地震後も建物機能を維持し、早期に使用を再開できるか」という観点まで広げると、設備を含めた設計情報の整合管理はさらに重要になっていきそうです。

出典元

国土交通省国土技術政策総合研究所
国立研究開発法人建築研究所

参考リンク

建築研究所「令和6年能登半島地震建築物被害調査等報告」
国土技術政策総合研究所 公式サイト
建築研究所 公式サイト

※本記事は、公開情報をもとに業界動向を整理したものです。各資料・制度・サービス等の詳細については、必ず各発表元・関係機関の公式情報をご確認ください。

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