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国交省、「インパクト改修」評価モデル5件を採択―築古不動産の改修を“性能向上+社会的価値”で評価する動きへ

業界ニュース

国土交通省は2026年9月8日、「不動産のインパクト改修投資促進に向けたモデル調査事業」の採択結果を公表しました。

この事業は、築年数が経過した不動産について、単なる修繕や設備更新ではなく、ESGなどの社会課題への対応を通じて社会的・環境的な価値を生み出す改修を促進するものです。応募10件のうち5件が採択されました。

採択された提案では、建物の改修による効果を、利用者、地域、環境、経済性など複数の視点から評価する仕組みが検討されています。例えば、建物・利用者・地域に関するデータを組み合わせた評価や、改修前後の差を定量的に比較する手法、テナントの声や地域課題を改修計画へ反映する考え方などが含まれています。

国土交通省はこれまでも、「社会的インパクト不動産」の考え方を整理し、不動産が人、地域、地球に関する課題解決へ貢献することで、社会的価値と不動産価値の双方を高める考え方を示してきました。今回のモデル調査は、その考え方を築古不動産の改修へ具体的に展開する取組といえます。

改修設計は「何を直すか」から「何を改善するか」へ

従来の改修計画では、外壁、防水、空調設備、照明、給排水設備など、老朽化した部分を更新することが大きな目的でした。

一方、インパクト改修では、改修後にどのような効果を生み出すのかを計画段階から整理する考え方が重視されます。

例えば、省エネルギー性能の向上だけでなく、室内環境の改善、利用者の快適性、地域との関係、建物の使いやすさなどを評価対象とし、それらをKPIなどによって測定・検証する仕組みが提案されています。採択モデルの中には、改修前後を比較して効果を定量化する考え方も含まれています。

このような設計では、改修工事項目を決めてから評価するのではなく、「どの性能や価値を改善したいのか」を整理したうえで改修内容を決定する流れがより重要になります。

実施設計図面にも「評価できる情報」が求められる

改修効果を定量的に評価する場合、評価の前提となる建築情報を正確に把握しておく必要があります。

例えば、断熱性能を改善する場合には、外壁、屋根、床、開口部などの仕様を確認します。室内環境を改善する場合には、窓、日射、照明、空調、換気などの条件が関係します。

実施設計では、これらの情報が平面図、立面図、断面図、矩計図、建具表、仕上表、設備図など複数の図面に分散します。

そのため、設計変更が行われた際には、評価に使用する条件と最新の実施設計図面が一致しているかを確認する必要があります。

例えば、窓仕様を変更した場合、建具表だけでなく立面図や断面詳細、外皮性能に関する情報などにも影響する可能性があります。

改修効果を測定する仕組みが普及すれば、図面を施工のためだけに作成するのではなく、建物性能や改修効果を確認するための基礎情報として管理することも重要になっていきます。

改修前の「現況把握」が評価精度を左右する

改修前後を比較するためには、改修前の建物状況を正確に把握しておくことが欠かせません。

築年数の経過した建物では、竣工図と現在の建物が一致していないことがあります。間仕切り変更、設備更新、用途変更などが繰り返されていても、その内容が図面へ反映されていないケースがあります。

そのため、改修設計を開始する前に既存図面を確認し、必要に応じて現地調査、実測、既存図トレースなどを行い、現況図を整備しておくことが重要です。

改修前の状態が正確でなければ、「改修によってどの程度改善したのか」という評価そのものの精度にも影響します。

特に、建物の性能を数値で比較する場合には、既存仕様と改修後仕様を明確に区分して管理する必要があります。

KPIを設定すると詳細設計にも影響が及ぶ

今回採択されたモデルでは、評価指標となるKPIや、その測定方法、測定時期、モニタリング方法まで含めた提案が評価されています。

こうした考え方が実際の改修プロジェクトへ広がると、設備やセンサーなどを建物へ組み込むケースも増える可能性があります。

例えば、温熱環境やエネルギー使用状況を改修後に確認するのであれば、計測機器の設置位置、電源、通信、点検方法なども検討事項になります。

その場合、平面図だけではなく、天井伏図、設備図、部分詳細図などへ必要な情報を反映する必要があります。

設計段階で「改修後に何を測定するのか」を決めておくことで、完成後に計測設備を追加する手戻りを減らすことにもつながります。

改修の価値を図面とデータの両方で残す

国土交通省は今回の事業について、採択した提案を支援しながら具体的な内容を調査し、今後の横展開につなげる方針です。

これまでの改修設計では、「工事が完了した状態」を図面に残すことが中心でした。

今後、インパクト改修の考え方が普及すれば、

改修前の状態
改修内容
改修後の仕様
改修によって期待する効果
実際に得られた効果

を一連の情報として管理する場面が増えていく可能性があります。

BIMを利用する場合には、建物形状だけでなく材料や設備、性能情報をモデルと関連付ける方法が考えられます。2D CADを中心とする場合でも、既存図、改修図、仕様書、変更履歴などを整理することで同様の情報管理は可能です。

重要なのは、設計図面と評価データを別々の情報として扱うのではなく、どの改修がどの効果につながるのかを追跡できる状態にしておくことです。

築古不動産の改修設計で求められる視点が広がる

国土交通省は、築古不動産への改修投資を促進するには、改修が新築に劣らない価値を持つことを示すことが重要だとしています。そのため、GHG排出削減だけでなく、Well-beingや地域活性化なども含めて改修効果を評価する方向性を示しています。

設計実務にとっても、この動きは単なる不動産投資の評価方法にとどまりません。

既存図面の整備、現況調査、改修前後の仕様管理、実施設計図面・各種詳細図の整合、設備や計測機器の計画など、設計段階で整理すべき情報が増えていく可能性があります。

今後の改修設計では、「老朽化した部分を直す」という視点に加え、「改修によって建物にどのような価値を生み出し、それをどう確認するのか」という考え方が、計画から実施設計までの重要なテーマになっていきそうです。

出典元

国土交通省

参考リンク

国土交通省「不動産のインパクト改修投資促進に向けたモデル調査事業」採択モデルの決定
国土交通省「採択提案の概要」
国土交通省「不動産分野におけるESG投資の促進に向けた取組・モデル調査事業」
国土交通省「『社会的インパクト不動産』の実践ガイダンス」

※本記事は、公開情報をもとに業界動向を整理したものです。各資料・制度・サービス等の詳細については、必ず各発表元・関係機関の公式情報をご確認ください。

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