国交省、住環境整備モデル6事業を選定―京町家・団地の空き住戸など「既存ストックを活かす設計」に注目

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国土交通省は2026年9月11日、「人生100年時代を支える住まい環境整備モデル事業」の令和8年度第1回選定結果を公表しました。高齢者、障害者、子育て世帯などが安心して健康に暮らせる住環境の整備を目的とするもので、今回は6事業が選定されています。
選定された事業には、京都・西陣の町家を福祉と暮らしが共存する場として活用する取組、団地の空き住戸を居住支援拠点として活用する取組、鹿児島県奄美市で地域ストックを活用するプロジェクトなどが含まれています。新築住宅を供給するだけではなく、既存建築物や空き住戸を地域の住まい・福祉・交流拠点として再構成する提案が目立ちます。
同事業では、住宅を整備する場合、住宅機能だけでなく、共同空間など住宅以外の機能を併せて整備することなどが補助要件として示されています。改修工事費については一定の補助制度も設けられており、既存建築ストックを活用した住環境整備も事業テーマの一つとなっています。
既存建物を「住宅+地域機能」へ再構成する設計
今回の選定結果で設計実務上注目したいのは、既存建物を単純に住宅へ改修するのではなく、居住と福祉、交流、生活支援など複数の機能を組み合わせる計画です。
例えば、従来住宅として使われていた建物へ交流スペースや支援機能を加える場合、既存の間取りをそのまま活用できるとは限りません。
利用者の動線、共用部と居住部分の区分、管理動線、プライバシー、段差、トイレ、浴室、出入口などについて、用途に合わせた再検討が必要になります。
用途構成や改修内容によっては、建築基準法上の用途、防火区画、避難経路、採光・換気、バリアフリー、消防設備などについても確認が必要です。
既存建物を活用する案件では、「どの部屋をどう使うか」を決めるだけでなく、新しい運営方法と建築計画を同時に整理することが重要になります。
京町家や古い住宅では、まず現況図の整備から
今回選定された事業の一つには、京都市の町家を活用する計画が含まれています。
町家や古民家など築年数の経過した建物では、現在の状態を正確に示すCAD図面が残っていないケースがあります。
保存されている平面図があったとしても、増改築や設備更新、間仕切り変更などが行われ、現況と一致していない可能性があります。
そのため改修設計では、既存資料を確認したうえで現地調査を行い、
既存平面図
立面図
断面図
建具位置
床・天井レベル
構造部材
設備位置
などを整理し、まず現況を図面化する工程が重要です。
古い紙図面や青焼き図面が残っている場合には、それらをCADへトレースしたうえで、現地調査との差異を反映して現況図へ更新する方法も考えられます。
既存図のトレースと現況図の作成は似ていますが、役割は異なります。トレース図は元図面をデータ化したものであり、現況図は実際の建築物を反映した設計資料です。この区別を明確にしておくことが、その後の実施設計の精度につながります。
団地の空き住戸活用では「専有部だけ」を見ない
今回の選定事業には、京都市の団地で空き住戸を活用し、居住支援の拠点とする取組も含まれています。
共同住宅の一住戸を改修する場合でも、設計対象を住戸内部だけで考えることはできません。
玄関扉や窓などの建具、配管、排気経路、PS、共用廊下、バルコニーなど、共用部分との関係を確認する必要があります。
また、共同住宅では管理規約や既存建物の施工条件によって、変更できる範囲が限定されることがあります。
水まわりを移動する場合には既存排水管との位置関係、床下寸法、勾配などを確認する必要があります。換気設備を変更する場合も、既存のダクト経路や外壁開口との関係を確認しなければなりません。
既存共同住宅の改修では、専有部分の平面図だけではなく、既存設備図や断面図、共用部分との取り合いを確認することが重要です。
「住む・支援する・交流する」が混在すると図面も複雑になる
今回のモデル事業では、多様な世帯の互助・交流や、住宅以外の機能を組み合わせた住環境整備が重視されています。
一つの建物内に居住空間、交流空間、相談スペース、福祉機能などが配置される場合、それぞれ必要となる設計条件が異なります。
実施設計では平面計画だけでなく、
出入口や動線
建具仕様
防火・避難計画
段差や手すり
トイレ・浴室
照明・コンセント
空調・換気
収納・家具配置
などを横断して確認する必要があります。
特に高齢者や障害のある人など多様な利用者を想定する場合には、設計図面上では成立していても、実際の使い勝手に問題がないかを詳細図まで確認することが重要です。
トイレ、浴室、玄関、廊下などは、平面詳細図や展開図、部分詳細図を作成することで、手すり、設備機器、建具、家具などの位置関係を確認しやすくなります。
用途変更では確認申請の要否を早い段階で整理
既存ストック活用では、建物の使い方そのものが変わることがあります。
従来の住宅を福祉施設や交流施設などと組み合わせる場合には、用途変更に該当するか、確認申請が必要となるかを計画初期に確認することが重要です。
用途や規模、改修内容によって適用される規定は異なります。
計画をある程度進めてから法規上の条件が判明すると、出入口、避難経路、防火区画、設備などを大きく見直す可能性があります。
そのため既存建築物の活用では、
現況調査
用途・運営方法の整理
法規調査
行政・確認検査機関への事前相談
基本計画
確認申請図書
実施設計図面
という流れを意識して進めることが重要です。
改修図面では「既存・撤去・新設」を明確に
既存建物の実施設計では、新築とは異なる図面表現が必要になります。
既存のまま残す部分、撤去する部分、新しく施工する部分を図面上で明確に区別しなければ、施工時の認識違いにつながります。
例えば間仕切りを変更する場合には、既存平面図、撤去図、改修後平面図を使い分ける方法があります。
さらに、
平面図
展開図
天井伏図
建具表
仕上表
設備図
部分詳細図
について、変更内容が相互に一致しているかを確認する必要があります。
図面作成を複数の担当者や外部スタッフへ分担する場合には、現況図と計画図のどちらを基準として作業するのかを明確にし、改訂履歴を共有することも重要です。
既存ストック活用では「建物」と「使い方」を一緒に設計する
今回選定された6事業を見ると、町家、団地の空き住戸、地域に残る既存ストックなどを、新しい住まい方や地域支援へつなげようとする取組が中心となっています。
建築設計の視点では、既存建物をきれいに改修することだけが目的ではありません。
誰が利用するのか、どのような支援を行うのか、地域の人がどこまで入れるのか、居住者のプライバシーをどのように確保するのかといった運営条件を、建築計画へ反映する必要があります。
そのため、これからの既存ストック活用では、既存図面のトレースや改修図面の作成だけでなく、現況調査、法規確認、用途整理、動線計画、各種詳細図までを一連の設計業務として管理することが重要になります。
空き家や空き住戸が増える中、「既存建物を何に使えるか」を考え、それを施工可能な実施設計図面まで落とし込む力が、今後さらに求められていきそうです。
出典元
国土交通省
人生100年時代を支える住まい環境整備モデル事業評価事務局
参考リンク
国土交通省「人生100年時代を支える住まい環境整備モデル事業選定結果(令和8年度第1回)」
人生100年時代を支える住まい環境整備モデル事業 公式サイト
令和8年度 選定事業・評価結果
国土交通省「人生100年時代を支える住まい環境整備モデル事業の概要」
※本記事は、公開情報をもとに業界動向を整理したものです。各資料・制度・サービス等の詳細については、必ず各発表元・関係機関の公式情報をご確認ください。