RC造建物のスラブ貫通部設計と補強方法


1. はじめに|スラブ貫通部が構造計画で重要な理由

RC造建物のスラブには、給排水管や電気配線、空調ダクトなど、さまざまな設備貫通が設けられます。しかし、スラブに穴を開けることは「断面欠損」を生じさせ、強度・剛性の低下につながります。開口の位置やサイズが適切でなければ、たわみの増大、ひび割れ、パンチングシアによる破壊など、重大な構造不具合を招く可能性があります。

また、スラブは耐火性能の確保にも重要な役割を担っており、貫通部が適切に防火措置されていない場合は、防火区画の破綻を引き起こすおそれがあります。そのため、建築設計・構造設計・設備設計の「三者調整」が不可欠です。設計初期から貫通部を検討し、施工段階でも正確な墨出し・配筋管理が求められます。


2. スラブ貫通部の基本知識

スラブ貫通部は、その「大きさ」「位置」「周辺配筋」によって構造への影響が大きく変わります。小径スリーブ(φ50以下)であれば、配筋補強だけで対応できることが多い一方、ダクトサイズが300mmを超えるような大型開口は、スラブの耐力を大幅に低下させるため、構造計算・補強が必須です。

また、貫通孔の位置が主筋・配力筋の流れを妨げると応力伝達が途切れ、スラブ全体の耐力に悪影響を与えます。このため、構造図(S1〜S3)と設備図(P、D、E)を照合し、開口位置の相違を早期に発見することが重要です。実務では、BIM連携や干渉チェックを行い、開口調整を継続的に管理するケースも増えています。


3. スラブ貫通孔が与える構造的影響

スラブ貫通孔が構造に与える影響は主に3つあります。

①曲げ耐力の低下
開口付近で有効高さが減少し、スラブの曲げ耐力が低下します。特に開口がスラブ中央部に位置する場合、曲げひび割れが発生しやすくなります。

②せん断耐力の低下(パンチングシア)
柱際や壁際に開口を設けると、集中荷重によってパンチング破壊の危険性が高まります。これは最も危険度が高いケースで、構造上避けるべき配置です。

③スラブ剛性の低下
大開口が多数存在すると剛性が低下し、たわみや応力集中を引き起こします。特に2方向スラブでは、開口位置により応力の流れが大きく変わるため、梁とスラブの一体性を損なう可能性があります。


4. 位置別の開口設計の注意点

4-1. スラブ中央部の開口

スラブ中央部に開口を設ける場合、主として曲げ耐力への影響が大きくなります。中央部はせん断力が比較的少ないため、大開口でなければ補強筋を追加することで対応できることが多いです。ただし、大径ダクトなどで梁間方向の主筋を切断する場合は、応力伝達の確保が必要になります。

4-2. 柱際・壁際の開口

柱際は最も避けるべき位置です。柱周りはパンチングシアが支配的で、わずかな開口でも安全率を大幅に下げます。どうしても設ける必要がある場合は、補強枠・スラブ厚増し・柱周りのせん断補強など、構造的に十分な検討が不可欠です。

4-3. 大梁貫通に近い位置の開口

スラブ端部や梁に近い位置では、せん断伝達が支配的になります。大梁下に配管ルートを通す場合は、梁貫通との干渉を避け、ルート変更またはスラブ厚の調整を検討します。梁成変更、梁下スペースの活用など、建築計画と設備計画の調整が必要です。


5. スラブ開口の補強方法(実務でよく用いられる手法)

5-1. 斜め補強筋(開口補強筋)の基本

開口補強筋は、開口対角線方向に配置することが基本です。これは応力が斜め方向に集中するためで、実務ではD10〜D13を×状に配置するケースが一般的です。補強範囲は、開口寸法の1〜1.5倍を確保すると効果的です。

5-2. 開口周囲の追加補強(帯筋・巻き筋)

主筋を開口により切断する場合は、周囲に帯筋や巻き筋を配置して応力を迂回させます。主筋が完全に途切れるとスラブとして成立しないため、必ず応力伝達ルートを確保します。

5-3. スリーブ・インサートの標準補強

小口径スリーブが多数ある場合は、累積断面欠損として扱われます。特に電気設備でスリーブが集中する場合は、開口の合算面積を評価し、補強を追加する必要があります。

5-4. 大開口の特別補強(開口補強枠・鋼枠補強)

大型ダクトや点検口など、300mm以上の開口には補強枠(鉄筋or鋼材)を設けることがよくあります。鋼枠はスラブの剛性を補い、応力を分散させる効果がありますが、重量増加や施工手間が増えるため、設計段階からの十分な検討が求められます。


6. スラブ厚と開口補強の関係

スラブ厚が薄いほど開口の影響は大きくなります。一般的な150mmスラブでは補強の自由度が低く、開口が大きい場合はスラブ厚増しを検討するのが実務的な判断です。180mm以上のスラブでは配筋量が増え、開口補強の選択肢が広がります。しかし、300mm級の大型開口ではスラブ厚増しや梁成調整が必要です。


7. 設備計画との調整ポイント

貫通部の失敗の多くは「設備と構造の連携不足」が原因です。設備ルートは早い段階で確定しないことも多く、構造設計を進めた後に急な変更が生じることもあります。

特に注意すべきは以下のポイントです。

  • 大径ダクト(φ300〜φ600)の早期確定
  • 給排水縦配管の位置固定(パイプスペースの確保)
  • 梁成との調整(梁貫通vsスラブ貫通の選択)
  • 建築仕上げ高さとの整合

BIMモデルを活用すれば、ルート干渉の可視化によって設計ミスの予防につながります。


8. 施工段階での注意点

スラブ貫通部の品質は、施工精度に大きく左右されます。以下の管理項目が重要です。

  • スリーブ位置のズレ防止(墨出しの二重チェック)
  • 配筋切断の禁止(やむを得ない場合は構造設計者へ確認)
  • 型枠脱型後の開口形状確認
  • 躯体検査時の貫通部チェック
  • 耐火措置の確実な施工

特に配筋切断は現場で起こりやすいミスであり、補強なしで切断すると重大事故につながるため、監理者が厳密にチェックすべき項目です。


9. よくある不具合と防止策

スラブ貫通部に起こりやすい不具合は次の通りです。

  • たわみ過大・ひび割れ:補強不足・スラブ厚不足
  • パンチングシア破壊:柱際開口
  • 漏水:スリーブ周りの防水不良
  • 応力集中:主筋切断による断面欠損
  • BIM/図面不整合:設計変更の周知不足

対策には、設計段階での開口調整と、施工段階での厳格な配筋管理が不可欠です。


10. まとめ|安全で合理的なスラブ貫通部設計のポイント

RC造のスラブ貫通部設計は、建築・設備・構造の知識が交差する領域です。開口の位置、大きさ、周辺配筋を正しく評価し、必要な補強を適切に行うことで、建物の安全性と機能性を両立できます。特に大開口は構造的リスクが高く、補強枠やスラブ厚増しの検討が重要です。また、施工段階でのスリーブ位置管理と配筋確認が、品質確保の鍵となります。