ムーブメントジョイントの設計要点
目次
1. はじめに:ムーブメントジョイントとは何か
ムーブメントジョイントとは、建物の構造体に生じる「動き」への対応を目的とした継ぎ目(ジョイント)のことです。主に温度変化・乾燥収縮・地震・振動などにより構造物が変形することを想定し、その影響を分散・吸収するために設けられます。
同様の機能をもつ用語に「エキスパンションジョイント(EXP.J)」や「コントロールジョイント(C.J)」がありますが、以下のように使い分けられます。
- エキスパンションジョイント:主に建物の構造体を分離するジョイントで、変位吸収量が大きい
- コントロールジョイント:仕上げ材のひび割れ誘発や吸収を目的とした意匠的・部分的ジョイント
- ムーブメントジョイント:両者を含む広義の「動きに対応する設計上の間隙」の総称
現代建築では、構造の大規模化・複雑化が進む中、ムーブメントジョイントの設計が建物全体の性能と寿命を左右する要素として再注目されています。
2. ムーブメントジョイントが必要となるケース
以下のような状況では、ムーブメントジョイントの設置が特に重要となります。
- 躯体の温度変化や乾燥収縮
鉄骨やRCなど異素材が組み合わさる建築物では、温度差によって膨張・収縮率が異なり、局所的な応力集中が発生します。 - 地震や風圧による動的変位吸収
構造体に大きな変形が生じるケースでは、ジョイントによる可動域が破損防止に寄与します。 - 異種材料の接合部や構造不連続部
RC+S造の混構造、外部から突き出た庇や屋根などでは、構造的連続性が断たれるため、ジョイントによる柔軟な変位調整が求められます。
3. 設計時に押さえるべきポイント
ムーブメントジョイントの設計では以下の点が重要です。
- 位置の選定と間隔の基準
基本的には構造の区切り・建物の折れ点・大スパン部材の中央など、変形の集中しやすい箇所に設けます。RC造の場合、50〜60m間隔が一般的な目安とされます。 - 幅の設定と許容変位量の考慮
季節変化や地震を想定した最大変位量(±変位)を確保する必要があります。設計時には温度差、材料係数、スパン長、振動解析結果などをもとに算出します。 - 使用部材の種類
ジョイント材には柔軟性・耐候性・耐火性を備えた部材が必要です。以下が代表例です:
- シーリング材(変位追従型)
- カバー材(アルミ・ステンレス・ゴム製)
- 耐火目地材(遮炎を伴う区画部)
4. 納まりとディテール設計の工夫
部位ごとに適切なディテール設計が必要です。
- 屋根:雨水の流入を防ぐため、重ね構造+防水層で2段防御とする
- 外壁:垂直方向の雨仕舞を意識し、目地キャップを用いる
- 床:歩行感に配慮し、レベリング材と合わせた勾配処理やスロープ納まりとする
- 開口部:サッシ枠の変形防止のため、スライド式や独立納まりにする
また、防水層や断熱層をまたぐ場合、**ジョイントの重なり位置を変える「オフセット設計」**が基本です。
5. 施工時の注意点と品質確保
設計図通りに性能を発揮させるには、現場施工の精度が重要です。
- 正確な墨出しと部材配置
ジョイント幅が小さい場合、誤差が影響しやすいため精密な施工が求められます。 - シーリング材の施工条件遵守
温度・湿度条件、プライマーの適正使用、バックアップ材の選定が必要です。 - メンテナンス性の確保
隠蔽部には点検口を設ける、カバー材は脱着式にするなど、長期の保守管理を意識したディテールが推奨されます。
6. よくある設計・施工ミスとその対策
- 配置・省略ミスによるひび割れや漏水
ムーブメントジョイントを設けるべき箇所で省略されていると、仕上げ材や構造体に深刻な損傷が発生します。事前の構造設計との連携が不可欠です。 - 材料選定の不備
耐久性・耐火性の不足した部材選定により、数年で劣化・剥離を起こす事例が報告されています。カタログスペックだけでなく実績確認が重要です。 - メンテナンス不能な納まり
仕上げに隠れて修理が困難な設計は避け、点検・交換が可能な構成にします。
7. まとめ:建物の寿命と性能を左右するムーブメントジョイントの適切設計
ムーブメントジョイントは、**見えない部分にこそ求められる「性能」と「計画性」**の象徴といえます。設計・施工・メンテナンスすべての工程で共通認識を持つことが、建物の長寿命化・安全性確保のカギです。
最後に、参考となる関連資料を以下に示します。
- JASS 7 建築工事標準仕様書(日本建築学会)
- 「建築物の目地設計指針」日本建築仕上材工業会
- 建築学会構造設計基準類(耐震設計指針等)
建築士試験では、「エキスパンションジョイントの適用位置」や「防水との取り合い」などが頻出ポイントですので、実務と併せて復習しましょう。


