現場溶接と工場溶接の違い

1. はじめに:なぜ溶接方法の違いが重要なのか

溶接は、鋼構造物の強度・耐久性を確保する上で欠かせない工程です。その中でも「現場溶接」と「工場溶接」は施工条件や品質に大きな違いがあり、選定を誤ると構造物の安全性や施工効率に直結します。
工場溶接は精度が高く、安定した品質が得られる一方、現場溶接は施工条件に左右されやすいものの、柔軟な対応が可能です。建築士試験や施工管理技士試験でも頻出テーマであり、実務者にとっても必須の知識となります。


2. 工場溶接の特徴とメリット・デメリット

工場溶接は、鉄骨加工工場など制御された環境下で行われます。

  • メリット
    • 温度や湿度の影響を受けにくく、高精度かつ安定した溶接が可能。
    • 作業環境が整っているため、超音波探傷試験(UT)や放射線透過試験(RT)など非破壊検査が容易。
    • 自動溶接機やロボットを活用することで均一な品質を実現できる。
  • デメリット
    • 工場から現場への輸送が必要なため、部材のサイズに制限がある。
    • 工場溶接で組み立てられない部分は結局、現場溶接や高力ボルト接合が必要となる。
    • 工場と現場での作業調整が必要で、工程が複雑になる場合がある。

3. 現場溶接の特徴とメリット・デメリット

現場溶接は、実際の施工現場で鋼材同士を接合する方法です。

  • メリット
    • 大型部材や現場条件に応じた柔軟な施工が可能。
    • 運搬制限がある場合でも現場で組み立てられるため、大規模構造物に適する。
    • 設計変更や現場調整にも対応しやすい。
  • デメリット
    • 気温、湿度、風、雨などの環境要因によって品質が不安定になりやすい。
    • 技術者の熟練度に依存し、品質のばらつきが発生しやすい。
    • 仮設計画(防風シート、仮設屋根など)の準備が必要でコスト増につながる場合がある。

4. 適用される構造・工事の事例

  • 工場溶接の事例
    • 鉄骨建築の梁・柱の接合部(仕口部)で多用され、JIS規格に基づく標準化が進んでいる。
    • 大型建築の鉄骨フレームの製作。
  • 現場溶接の事例
    • 橋梁やプラント設備など、現場での接合作業が避けられない工事。
    • 大規模構造物で工場搬入が困難な部材の接合。
  • ボルト接合との比較
    • 高力ボルト接合は品質の安定性に優れるが、部材断面が大きくなる場合がある。
    • 強度・剛性を重視する箇所では溶接が有効。

5. 品質管理と検査方法の違い

工場溶接では、溶接条件が一定であるため非破壊検査の実施率が高く、欠陥の早期発見が可能です。特に、超音波探傷試験(UT)や放射線透過試験(RT)が効率的に行えます。
一方、現場溶接は検査環境が制約されるため、磁粉探傷試験(MT)や浸透探傷試験(PT)が多用されます。欠陥が発見された場合、現場で補修溶接を行う必要があり、手戻りのリスクが増加します。


6. コスト・工程・安全性の観点からの比較

  • 施工スピード:工場溶接は大量生産向きで効率的だが、現場での組立工程を伴うため全体工期との調整が重要。現場溶接は臨機応変に対応できるが、天候によって工程遅延のリスクがある。
  • 安全性:工場は安全対策が整っているため事故リスクが低い。現場溶接は高所作業や火気使用に伴う危険性が高く、安全管理がより重要。
  • コスト:工場溶接は品質安定による長期的なコスト削減効果がある一方、現場溶接は仮設費や補修費がかさむ傾向にある。

7. まとめ:現場溶接と工場溶接の使い分けの勘どころ

現場溶接と工場溶接には、それぞれの特性・強みがあります。

  • 工場溶接は品質と精度を重視する主要部材に適し、効率的な量産に向いています。
  • 現場溶接は大型構造物や複雑な現場条件への対応力が求められる場面で有効です。

設計者や施工管理技士は、コスト・品質・工期・安全性の観点から適切な手法を選定することが重要です。さらに、今後は溶接ロボットやAI技術の導入が進み、現場溶接においても品質の安定化が期待されています。