RC造における二方向スラブ設計の基本
目次
- 1. はじめに:二方向スラブは「成立条件」と「納まり」で差がつく
- 2. 二方向スラブの成立条件を押さえる
- 3. 構造モデルの考え方:板として見るか、格子梁として見るか
- 4. 設計荷重の整理:長期・短期・地震時で何が変わる?
- 5. 曲げ設計の基本:正曲げ・負曲げと配筋の考え方
- 6. せん断・パンチングの基本:柱周りが危ない理由
- 7. たわみ・振動のチェック:仕上げクレームを防ぐ
- 8. ひび割れ制御の基本:配筋・収縮・拘束の視点
- 9. ディテール設計:開口・段差・設備貫通の落とし穴
- 10. 施工との整合:配筋検査で“指摘されやすい”ポイント
- 11. 設計手順のまとめ:実務で迷わないチェックリスト
- 12. おわりに:二方向スラブは“計算より調整力”で決まる
1. はじめに:二方向スラブは「成立条件」と「納まり」で差がつく
RC造の床スラブは、見た目は“ただの板”でも、設計では荷重の流れと支持条件で挙動が大きく変わります。
その代表が「一方向スラブ」と「二方向スラブ」です。
- 一方向スラブ:主に短辺方向へ曲げが支配的。荷重は短辺方向に流れて梁へ伝わる“梁に乗る板”のイメージ。
- 二方向スラブ:短辺・長辺の両方向に曲げが発生。荷重が面として分配され、周辺梁や柱へ二方向に流れる。
二方向スラブが効く場面は多いです。例えば、
- 盤が正方形に近い(スパン比が小さい)
- 周辺梁がしっかりしていて四辺支持が成立
- たわみ・ひび割れを抑えたい(使用性重視)
- 梁成を小さくしたい(天井懐・意匠条件が厳しい)
一方で、二方向スラブは成立条件を外すと“想定外の一方向挙動”に寄ることがあり、配筋やディテールが破綻しやすい。
この記事では、実務で迷いやすいポイント(成立条件・モデル化・配筋・パンチング・施工整合)を、設計〜現場まで一気通貫で整理します。
2. 二方向スラブの成立条件を押さえる
支持条件(四辺支持、三辺支持、連続条件)
二方向性の第一条件は、**周辺が“板として支えられているか”**です。
- 四辺支持(理想):四辺に梁などの支持があり、回転拘束もある程度期待できる
- 三辺支持:一辺が自由端や開口連続などで弱い → 二方向性は低下しやすい
- 連続スラブ:隣接スパンと連続し、支持部で負曲げが発生 → 支持部配筋が重要
設計でよくある落とし穴は、「図面上は四辺梁があるのに、実質は片側が弱い」ケースです。
例:片側が小梁の連続欠損、片側が壁抜け開口の連続、片側が片持ち状の納まりなど。
スパン比と二方向性の判断
実務的には、長辺/短辺のスパン比が二方向性の判断軸になります。
スパン比が小さいほど二方向の分担が増え、比が大きいほど短辺方向支配(一方向的)になります。
ここで重要なのは、「二方向スラブで計算したつもりでも、実際は周辺条件で一方向に寄る」こと。
スパン比だけでなく、次の“梁剛性”が効きます。
周辺梁の剛性が与える影響(梁が弱いと起きること)
二方向スラブは、板が二方向へ荷重を分担する代わりに、周辺梁にも反力が二方向で入ります。
周辺梁が弱いとどうなるか。
- 梁がたわみ、板の端部回転が増える
- 結果、板の負曲げが期待できず、中央部のたわみ・ひび割れが増える
- さらに、反力の偏りで梁側のひび割れ・たわみクレームにつながる
つまり、二方向性を成立させるには、**板だけでなく“周辺梁の剛性もセット”**で考える必要があります。
3. 構造モデルの考え方:板として見るか、格子梁として見るか
解析モデルの選択肢(簡略法/FEM)
二方向スラブは、解析手法が複数あります。
- 簡略法:係数法や近似式で、曲げモーメント分配を読む
- 格子梁モデル:スラブを格子状の梁要素に置換して解析
- FEM(板要素):面要素で応力・変形を詳細に把握
実務では、標準形状なら簡略法、開口・段差・スラブ厚変化があるならFEMが安全です。
ただしFEMは“入力の質”が結果を左右します。支持条件(回転拘束、梁の剛性、連続条件)を雑に入れると、もっともらしい数字が出て逆に危険です。
荷重の流れ(面内→梁→柱)と反力
二方向スラブは「面で分担」するため、反力が周辺梁・柱へ分散して入ります。
このとき注意したいのは、柱近傍で応力が高くなる=パンチングや局部曲げが支配しやすい点です。
また、水平構面(床剛性)としての役割を考える場合、スラブは単なる鉛直部材ではなく、**地震時に面内せん断を負担する“床ダイアフラム”**になります。ここは後段(荷重整理)でつなげます。
開口・段差・厚さ変化がある場合の注意
二方向スラブに「開口」が入ると、荷重の流れは回り込みます。
開口の角部は応力集中が起きやすく、ひび割れの定番ポイントです。
段差スラブ(床段差・下がり天井・水回り)や、厚さ変化(ドロップパネル等)も同様で、
- 断面が変わる境界で曲げ・せん断が乱れる
- 配筋が過密化しやすい
- 施工性(かぶり・定着)が悪化しやすい
「二方向の理屈」より先に、“納まりの破綻”を起こさない設計が重要になります。
4. 設計荷重の整理:長期・短期・地震時で何が変わる?
固定荷重(仕上げ・間仕切り・設備)をどう見込むか
床スラブ設計で事故が起きやすいのは、固定荷重の見込み不足です。
特に以下は実務で効いてきます。
- 二重床・置床、OAフロア
- 石・タイルなど重い仕上げ
- 設備架台、ダクト集中、天井内の設備密度
- 間仕切りの変更が起きやすい用途(事務所・テナント)
固定荷重は「後から増える」ことが多いので、用途の将来変更も含めて想定すると安全側になります。
積載荷重(用途別)と想定外ポイント
積載荷重は用途により規定されますが、実務の想定外は
- 書庫・倉庫化(オフィスの一部が書類庫になる)
- 設備室の更新で重量機器が乗る
- 住戸でも水槽・大型家具など“局部荷重”が入る
など。
二方向スラブは分散してくれる反面、局部荷重が柱・開口周りに寄ると局部破壊側(パンチング等)が支配しやすいので、配置計画も含めて見ます。
地震時の床剛性(水平構面)との関係
二方向スラブは床として“強そう”に見えますが、地震時は
- 開口が多い
- スリットが多い
- 目地・打継ぎ計画が悪い
と、床剛性(面内せん断伝達)が落ちることがあります。
「鉛直の曲げ設計」と「水平構面としての設計」を別物として整理し、必要なら構造計算のフレームモデル・床剛性仮定と整合を取ります。
5. 曲げ設計の基本:正曲げ・負曲げと配筋の考え方
正曲げ・負曲げの整理
床スラブの配筋で迷うポイントはここです。
- スパン中央:正曲げ(下端引張になりやすい)
- 支持部近傍:負曲げ(上端引張になりやすい、連続条件で顕著)
二方向スラブでは短辺・長辺それぞれでこの現象が起き、支持部(梁際)で上端筋の重要性が増します。
配筋方向(短辺・長辺)と配筋量バランス
二方向スラブは、短辺方向だけ太くして終わり、ではありません。
短辺・長辺で曲げモーメントをどう分担するかに合わせて、配筋量のバランスを取ります。
実務のコツは、
- 主配筋=短辺方向になりやすい
- ただし長辺方向も一定量が必要(ひび割れ・拘束・局部応力)
- 配筋比が極端だと施工・検査で指摘されやすい(過密、かぶり不足)
端部・隅角部の応力集中と補強
隅角部は、二方向の曲げが交差し、ひび割れが出やすいポイントです。
開口の角部も同じ構造で、対角方向のひび割れ(いわゆる“角割れ”)が定番です。
ここは「計算値」よりも、
- ひび割れの走る方向に対して“縛る筋”を入れる
- 配筋の連続性を途切れさせない
- 定着と重ねの位置を散らす
といったディテール設計が効いてきます。
6. せん断・パンチングの基本:柱周りが危ない理由
二方向スラブで見落としやすい破壊モード
床スラブの事故で怖いのは、曲げのように“徐々にたわむ”より、脆性的に抜ける破壊です。
代表がパンチングせん断(柱周りで円錐状に抜ける破壊)です。
二方向スラブは、柱に反力が集中しやすく、柱近傍のせん断応力が高くなります。
柱頭・柱際のパンチングせん断の考え方
パンチングは、柱周りの“ある周長”でせん断応力度を評価して安全性を見る考え方が基本になります。
柱断面が小さい、スラブが薄い、荷重が大きい、柱間が広い…という条件が揃うと危険側です。
対策手段(スラブ厚UP、柱頭補強、ドロップパネル等)
対策の方向性はシンプルで、
- スラブ厚を上げる(最も効くが、重量増・階高影響)
- 柱頭を厚くする(ドロップパネル等)(設備・天井懐との調整が必要)
- 補強筋・せん断補強(施工性・配筋過密に注意)
- 柱断面を大きくする(計画側の調整)
現場で成立する納まり(配筋・型枠・打設)まで想像して選ぶことが重要です。
7. たわみ・振動のチェック:仕上げクレームを防ぐ
長期たわみ(クリープ・乾燥収縮)をどう捉えるか
RCのたわみは、短期だけ見ても足りません。
長期ではクリープと乾燥収縮で変形が進み、以下につながります。
- 仕上げの割れ、床鳴り
- 建具不具合(ドアが擦る等)
- 天井・間仕切りとの取り合いクレーム
二方向スラブは剛性が高くなりやすい一方、スパンが伸びると一気にたわみ問題が顕在化します。
たわみ制限の実務
実務のチェックは「規定の制限値を満たす」だけではなく、
- 仕上げの種類(タイル、石、直貼りなど)
- 間仕切りの位置(たわみの勾配が出る場所)
- 施工時の支保工・型枠の精度
まで含めます。
居住性能(振動感覚)とスパン・厚さ
住宅・ホテル・オフィスでは床振動の体感問題が出ることがあります。
薄い大スパン床、梁成制限、設備貫通が多い、など条件が揃うと要注意。
必要なら、床の固有振動数や歩行振動の評価も視野に入ります。
8. ひび割れ制御の基本:配筋・収縮・拘束の視点
乾燥収縮ひび割れと温度ひび割れ
床スラブのひび割れは、「曲げだけが原因」ではありません。
- 乾燥収縮(コンクリートが縮みたい)
- 温度変化(打設後の温度勾配)
- 拘束(梁・壁・柱に引っ張られて縮めない)
これらが複合して、ひび割れは発生します。
配筋の“効かせ方”(ピッチ・かぶり・定着)
ひび割れ制御で効くのは、太さよりもピッチと連続性です。
ピッチが粗いと、割れる場所を筋で拘束できず、一本の大きな割れになります。
また、配筋が過密になると、
- かぶり不足
- 充填不良(ジャンカ)
- 検査指摘・是正
につながるので、設計段階で“施工の余白”を残すのがコツです。
目地・スリット・誘発目地の使いどころ
仕上げ計画と一体で考えると効果的です。
ひび割れはゼロにはできない前提で、
- 割れても良い場所に誘導
- 目地で見え方を制御
- スリットで拘束を逃がす
という“制御設計”が現実的です。
9. ディテール設計:開口・段差・設備貫通の落とし穴
開口補強(補強筋の入れ方と逃げ道)
開口補強は「開口の周りに筋を足す」だけだと不十分なことが多いです。
荷重の流れが回り込むので、開口角に対して斜め方向のひび割れを想定し、補強筋の方向・定着を整えます。
段差スラブ・下がり天井・スリーブ集中のリスク
段差部は断面が変わり、応力が乱れます。
スリーブ集中は有効断面を削り、局部的に弱くなります。
“設備が後から穴を増やす”のも定番なので、設備計画との擦り合わせを前倒しします。
梁成・天井懐・設備ルートとの調整
二方向スラブは「梁を小さくできる」期待が先行しがちですが、
そのしわ寄せが配筋過密やパンチング対策の厚増しとして戻ってくることがあります。
意匠・設備・構造の三者で、どこに余白を持たせるかが勝負です。
10. 施工との整合:配筋検査で“指摘されやすい”ポイント
定着長さ、かぶり、スペーサー
現場指摘で多いのは、
- 定着不足(梁際、柱際、開口際で短くなる)
- かぶり不足(過密、スペーサー不足、踏み荒らし)
- スペーサーの種類・配置不足(沈み、たわみ、かぶり不良)
設計者としては、配筋図で「入る」だけでなく、「入れて維持できる」納まりを作る必要があります。
端部・隅角・柱周りの納まり
二方向スラブは柱周りが過密になりやすい。
柱主筋・帯筋、梁筋、スラブ筋、補強筋が集まり、かぶりと打設性が崩れやすい。
配筋の“優先順位”を整理し、必要なら断面計画(柱サイズ・梁成・厚さ)に戻って調整します。
打設順序・養生とひび割れ
床は面積が大きく、打設・左官・養生の差が品質に直結します。
打継ぎ位置や養生不足がひび割れを誘発するので、設計図・施工計画・品質管理の整合が重要です。
11. 設計手順のまとめ:実務で迷わないチェックリスト
成立条件→モデル→荷重→曲げ→せん断→使用性の順
二方向スラブ設計は順番が命です。
- 成立条件(支持・梁剛性・スパン比)
- モデル化(簡略/格子/FEM)
- 荷重整理(固定・積載・地震時)
- 曲げ設計(正負曲げ、方向配筋)
- せん断・パンチング(柱周り)
- 使用性(たわみ・振動・ひび割れ)
- ディテールと施工整合(開口・段差・貫通)
ありがちなNG例(実務あるある)
- 四辺支持のつもりが、実質三辺支持(片側梁が弱い/連続欠損)
- 開口補強が形式的で、角割れ・沈下ひび割れが出る
- 柱周りが過密でかぶり不良→ジャンカ→補修
- たわみ検討が甘く、床鳴り・建具不具合につながる
最終図面チェック項目(構造図・配筋図・設備図の整合)
- スラブ筋の方向・ピッチ・定着が一貫している
- 開口位置と補強が設備図と一致している
- 柱周りのパンチング対策(厚さ・補強)が断面に反映されている
- 施工性(かぶり・スペーサー・配筋間隔)が成立している
- 打継ぎ・目地計画が仕上げと矛盾していない
12. おわりに:二方向スラブは“計算より調整力”で決まる
二方向スラブは、理屈としては「二方向で分担して有利」ですが、
実務では 支持条件の成立 と ディテールの整合 が取れて初めて“有利さ”が出ます。
計算で最適化しても、
- 柱周りの納まりが入らない
- 開口が増えて流れが崩れる
- 施工でかぶりが守れない
となれば、性能も品質も崩れます。
二方向スラブ設計は、構造だけの勝負ではなく、意匠・設備・施工を巻き込む調整力が設計品質を決めます。

