鉄骨造における仮設支保工の設計要点
目次
- 1. はじめに:鉄骨造の“仮設支保工”が品質と安全を左右する理由
- 2. 仮設支保工の基礎知識
- 3. 適用範囲の整理:何を“支える”のかを最初に決める
- 4. 設計の前提条件を固める(ここが8割)
- 5. 荷重設定の要点
- 6. 支保工部材の選定と構造検討
- 7. 変形管理(たわみ・沈下・建入れ)の考え方
- 8. 転倒・滑動・抜け止め:安定計算の実務ポイント
- 9. 合成床・デッキスラブ打設時の支保工設計
- 10. 鉄骨建方の仮設支保:建方中の“安定系”を作る
- 11. 現場で起きやすい不具合と対策
- 12. 安全管理・法令/基準との関係
- 13. 設計図書・指示書のまとめ方(伝わるアウトプット)
- 14. ケーススタディ:典型3パターンの設計アプローチ
- 15. まとめ:仮設支保工は「構造・工程・現場」をつなぐ設計
1. はじめに:鉄骨造の“仮設支保工”が品質と安全を左右する理由
鉄骨造は「本設の設計さえ正しければ安全」というわけではありません。むしろ事故や手戻りが起きやすいのは、建方中・打設中・仮固定中といった“仮の状態”です。この期間は、部材がまだ一体化しておらず、剛性も耐力も「完成形」とは別物。ここを支えるのが仮設支保工です。
仮設支保工の設計が甘いと、次のような問題が起きます。
- 建入れが保てない(柱が倒れ込む・梁が振られる)
- 変形が残る(後工程でボルト穴が合わない/床の不陸・たわみが残る)
- 局部破壊(敷板めり込み、ベースのパンチング、梁の横座屈)
- 安全事故(転倒・滑動・緩み・落下、第三者災害)
つまり仮設支保工は、構造の“つなぎ目”を成立させる装置です。設計は「強い部材を立てる」だけでなく、工程・荷重・変形・固定方法を一体で組み立てる必要があります。
2. 仮設支保工の基礎知識
支保工の役割(安定・位置決め・変形抑制)
仮設支保工の役割は大きく3つです。
- 安定(倒れない・崩れない)
建方途中の柱・梁・フレームが、風や偏心、吊り荷の影響で不安定になります。支保工はこの“完成前の不安定さ”を補います。 - 位置決め(建入れ・通りの保持)
鉄骨は「入ったら勝ち」ではなく、入った状態を維持するのが難しい。ターンバックルや控え、仮設水平構面などで、精度を保ちます。 - 変形抑制(たわみ・沈下を制御)
合成床のデッキ+スラブ打設では、支保工がたわめば床がたわみ、後で戻りません。支保工は「たわませない」か「想定して上げ越す」かを設計します。
鉄骨造で支保工が必要になる代表シーン
- 建方中の柱の建入れ保持(独立柱、コア周り、最上階付近)
- 大スパン梁・片持ち梁の建方時の変形抑制
- デッキスラブ打設(支保、梁の横座屈対策)
- 吹抜け・段差床・開口周りの局所支保
- 階段・外装下地など、後付け部材の仮固定・安全確保
「本設」と「仮設」の責任範囲(設計・施工・監理)
実務では混線しがちですが、整理すると楽になります。
- 本設(設計者):完成時に成立する構造(許容応力度・保有耐力等)
- 仮設(施工側):施工手順と施工時安全を成立させる構造(計画・検討・点検)
- 監理(監理者):施工計画・安全計画が合理的かを確認し、必要な資料提出を求める
ポイントは、仮設支保工は「施工の自由度」に任されがちなので、誰が決めて、誰が確認し、誰が変更管理するかを最初に決めておくことです。
3. 適用範囲の整理:何を“支える”のかを最初に決める
仮設支保工の設計で最初にやるべきは、対象の切り出しです。ここを曖昧にすると、検討が“網羅できているようで穴だらけ”になります。
建方中の柱・梁・ブレースの安定
- 独立柱:倒れやすい。控えの方向と固定点(足元・上部)が重要。
- 梁架け後のフレーム:まだ床がないので水平剛性が不足。仮設水平構面が必要な場合がある。
- ブレース導入前:先行ブレースの段取りが“仮設支保工”の一部になる。
合成床(デッキ)・スラブ打設時の支保
- デッキは“型枠”であり、打設時は梁・デッキ・スタッド・支保がセットで働きます。
- 支保が弱いと床たわみ・不陸、梁の横座屈、デッキの局部座屈を誘発します。
鉄骨階段・外装下地など部材別の注意点
- 階段:吊り込み中の振れ止め、仮固定、踏板施工前の安定。
- 外装下地:風の影響を受けやすい。固定が進むまで“仮の耐風設計”が必要。
4. 設計の前提条件を固める(ここが8割)
仮設支保工は、計算より前提が勝負です。前提が変われば結果は全部変わります。
工程・建方手順(建方計画)との整合
- 何階まで建てるのか(1節建方か、層ごとか)
- 先にブレースを入れるのか、後でまとめて入れるのか
- デッキ敷き・配筋・打設の順序
- クレーンの位置と吊り方(片側吊り、2点吊り 等)
支保工単体の強さではなく、その支保工が必要な期間・順序が重要です。
支点条件(地盤・スラブ・梁上など)と許容沈下
支保脚部は、見落としが多い“壊れどころ”です。
- 地盤:転圧状況、雨天時の軟化、敷鉄板の有無
- 既設スラブ:局部荷重に耐えるか(パンチング、ひび割れ)
- 梁上:梁の局部座屈やウェブ座屈、フランジ局部圧縮
「支保材が強い」よりも「支える面が耐える」が先です。
施工誤差・組立誤差・クリアランスの見込み
- 高さ調整(ジャッキストローク)
- 取り合い干渉(デッキ段差、設備開口)
- 単管の芯ずれ、クランプ角度、ボルト締付不足
仮設は“理想形で立たない”前提で、許容範囲を設けます。
風・地震・建方中の水平力の扱い
建方中は軽くて柔らかいので、風の影響が相対的に大きくなります。
さらに、吊り荷の揺れ、部材の引寄せ、仮ボルトの遊びが水平力を増幅します。
設計上は、少なくとも
- 風(無風前提は禁止)
- 偏心(片側だけ梁が掛かった状態)
- 一時的な衝撃(接触、引寄せ)
を“ケース”として持っておくのが安全です。
5. 荷重設定の要点
鉛直荷重:自重・施工荷重・仮置き荷重
- 自重:梁・デッキ・配筋・設備仮置きなど
- 施工荷重:作業員・工具・打設機器の荷重
- 仮置き荷重:材料置き場化(これが一番怖い)
現場では「置かない予定」が「置く」に変わります。計画書に**“仮置き禁止範囲”**や許容荷重を明記して、管理できるようにするのが現実的です。
水平荷重:風荷重、建方中の偏心、衝突・引寄せ
仮設支保工にとって水平荷重は致命的です。鉛直は耐えても、水平が入ると転倒・滑動が起きます。
- 風:特に外周・最上部・吹抜け周り
- 偏心:片側だけ剛性がある、片側だけ荷重が載る
- 衝突・引寄せ:梁を寄せる、ボルト穴を合わせる作業で水平力が入る
打設荷重:コンクリート側圧・ポンプ圧・振動の影響
デッキスラブ打設では、支保に
- 打設中の偏荷重(片押し)
- 振動による一時的な増幅
がかかります。
“均等に打つ前提”だけで設計すると、実際の打設手順で破綻します。
荷重の組合せと「最悪ケース」の作り方
仮設の最悪ケースは「完成状態」ではなく「未完成状態」。
例)
- 梁が片側だけ架かった状態で風が当たる
- デッキが半分だけ敷かれ、材料が片側に仮置きされる
- 打設が片押しで進み、支保に偏荷重がかかる
**工程の中にある“瞬間最大”**を拾うのが仮設支保工の荷重設定です。
6. 支保工部材の選定と構造検討
鋼製支柱・単管・枠組・システム支保の使い分け
- 鋼製支柱:高さ調整しやすいが、水平剛性は別途確保が必要
- 単管:自由度は高いが、緊結品質に依存(締付管理が重要)
- 枠組:安定しやすいが、取り合い制約がある
- システム支保:性能は高いが計画・搬入・費用を要する
「現場で確実に組めるもの」を優先し、無理な計画は避けます。
軸力・曲げ・座屈(細長比)・接合部の確認
仮設は細長い部材が多く、座屈が支配的になりやすいです。
- 圧縮材:細長比を意識し、中間の拘束(ブレース)を設ける
- 接合部:クランプの許容、ボルトのせん断・引張、緩み止め
接合が弱いと、部材強度以前に“結合がほどけて”崩れます。
ブレース配置と水平剛性(ねじれ・面外座屈への配慮)
支保は鉛直だけでなく水平剛性が要です。
- 平面でねじれない配置(偏心配置は避ける)
- 面外座屈を止める位置に拘束を入れる
- 風を受ける面にブレースを入れる(外周は特に)
支承部(ベースプレート・敷板)の局部圧縮
壊れ方は多くがここです。
- 敷板の厚み・面積が足りずめり込む
- 既設スラブに局部圧縮でクラック
- 梁上の支点でフランジが局部座屈
「脚が沈んだ」=全体が傾くので、局部は全体崩壊の起点になります。
7. 変形管理(たわみ・沈下・建入れ)の考え方
許容変形の設定(仕上げ・建方精度への影響)
仮設の許容変形は「安全」だけでなく「品質」が支配します。
- 床:不陸が仕上げに直結
- 鉄骨:建入れ不良が建具・外装に波及
- ボルト:穴ずれで手戻り
許容値は、後工程(床・外装・設備)から逆算します。
たわみの見込みと「上げ越し(カンバー)」の判断
たわませないのが理想ですが、現実にはゼロにできません。
- たわみが見込まれる場合は、上げ越しで吸収する
- 上げ越しは“計算だけ”でなく、施工精度・測定方法もセットで決める
不同沈下リスクと測定・調整方法
- 雨で地盤が緩む
- 支点が点で載っている
- 片押し打設で片側だけ沈む
このリスクは計測で抑えられます。
レベル測定、マーキング、許容沈下超過時の打設中断基準などを決めておくと強いです。
8. 転倒・滑動・抜け止め:安定計算の実務ポイント
支保脚部の滑動、転倒、沈下のチェック
現場で起こるのは、軸力不足ではなく安定不足です。
- 滑動:水平力に対して摩擦が足りない
- 転倒:重心が外に出る、控えが効いていない
- 沈下:敷板が小さい、地盤が弱い
チェックは「部材強度」より先に行うのが合理的です。
緊結(クランプ・ボルト)と抜け止めの設計
仮設は“締めたつもり”が多い領域です。
- クランプ:角度不良、締付不足、再使用劣化
- ボルト:仮ボルトの本数不足、座金不足、緩み
抜け止め・二重ナット・マーキング管理など、品質管理の仕組みも設計の一部です。
アンカー固定の要否と適用条件
アンカーは強い一方で、
- 既設躯体への影響(貫通・ひび割れ)
- 撤去跡の補修
- 許可・手続き
が発生します。
「摩擦+敷板+控え」で足りるか、「アンカーが必要なケース」を線引きしておくと運用が安定します。
9. 合成床・デッキスラブ打設時の支保工設計
デッキ受け、梁の横座屈、サポートピッチ
デッキスラブ打設は、支保工設計が一気に難しくなります。
- デッキの支持点(受け梁・受け金物)
- 打設中、梁の上フランジが拘束されず横座屈しやすい
- サポートピッチが粗いと、局所たわみが出る
支保工は「床を支える」だけでなく「梁を横座屈させない」役割も持ちます。
打設順序・打設速度が支保工に与える影響
- 片押しで進むと偏荷重
- 打設が速いと局所に荷重が集中
- ポンプホースの移動で動的荷重
施工計画(打設順序・速度・区画)と支保計画はセットです。
開口・段差・跳ね出し部の局所検討
開口や段差は、荷重の流れが歪みます。
- 開口周りの補強(受け梁・補助梁)
- 跳ね出し部は支持条件が不利
- 段差は打設順序でも偏荷重が起きる
「通常部と同じ支保」で済ませない判断が必要です。
10. 鉄骨建方の仮設支保:建方中の“安定系”を作る
建入れ保持(ターンバックル、控え、仮ボルト)
- 柱の建入れは控えで決まる(方向・角度・固定点)
- ターンバックルは“調整装置”で、耐力装置ではない。使い方を誤ると危険
- 仮ボルトは本数と位置で剛性が変わる
先行ブレース、仮設水平構面の組み方
- 先行ブレースをどこで入れるか(コア、端部、外周)
- 仮設水平構面(仮設の床ブレース)で“面”を作る
- 面ができれば、柱の控えを減らせる場合もある
クレーン荷重・吊り荷の影響と近接リスク
- 吊り荷の揺れで柱・梁に水平力
- 旋回時の接触、仮固定部への衝撃
- 近接作業(高所・開口)との干渉
建方計画に「支保の解除タイミング」も書いておくと事故が減ります。
11. 現場で起きやすい不具合と対策
たわみ過大、沈下、座屈、緩み、共振
- たわみ過大:支保ピッチ不足、仮置き荷重、片押し打設
- 沈下:敷板不足、雨天、支持地盤弱い
- 座屈:細長比過大、中間拘束不足
- 緩み:締付管理不足、振動、再使用材
- 共振:風や作業振動で揺れる(水平剛性不足)
対策は「強くする」より、荷重の入れ方を変える・拘束を入れる・測るが効きます。
「設計通りに組めない」時の判断基準
現場では必ず起きます。判断基準を事前に決めておくと止まりません。
- 支点位置の変更は許容するか
- 支保材の種類変更は可能か
- ブレース1本省略はNGなど、絶対条件を決める
変更手順(誰が、何を確認し、どう記録するか)
- 変更の提案者(職長/現場監督)
- 確認者(施工計画責任者/仮設担当)
- 記録(写真、変更図、日報記載)
これがないと“その場判断”が常態化して危険です。
12. 安全管理・法令/基準との関係
支保工計画書・施工計画書に入れるべき項目
- 適用範囲(どこを支えるか)
- 支保材の仕様(種類、寸法、ピッチ、高さ)
- 支点(敷板、ベース、固定方法)
- 組立手順・解除手順
- 許容荷重・仮置き禁止
- 点検項目と頻度
作業床・開口養生・第三者災害防止との連携
支保工の周りは、資材・人・機械が密集します。
開口養生、作業床、落下物防止は支保工計画と一体で考える方が事故が減ります。
点検(組立時・使用中・解体時)のチェックリスト
- 組立時:締付、水平、垂直、敷板、ブレース
- 使用中:沈下、緩み、変形、仮置き状況
- 解体時:先に外してはいけない部材の明確化
13. 設計図書・指示書のまとめ方(伝わるアウトプット)
図面に必ず入れる情報(配置・高さ・締結・許容荷重)
- 配置図:ピッチ、方向、開口部の扱い
- 立面:高さ、ジャッキ量、支点条件
- 締結:クランプ位置、ボルト本数、抜け止め
- 許容:仮置き荷重、禁止範囲
現場は文章より図が強いので、模式図を惜しまないのがコツです。
施工手順とセットで示すべき注意事項
- 解除手順(どこから外すか)
- 打設順序(区画、速度)
- 変更時の連絡フロー
写真/模式図で“勘違い”を減らす工夫
- OK例/NG例を並べる
- 「ここは必ず二重ナット」など、現場が迷う箇所を強調
- 注意書きは短く(長文は読まれない)
14. ケーススタディ:典型3パターンの設計アプローチ
大スパン梁+デッキ打設
- 梁の横座屈を止める拘束(仮設の横拘束)
- 支保ピッチを詰め、片押し打設を避ける
- 上げ越しの有無を事前に決め、レベル管理する
吹抜け・跳ね出し・片持ち部
- 支点条件が不利なので、仮設で“支点を作る”発想
- 風の影響が大きいので、控え・ブレースを増やす
- 作業床・養生と一体計画にして事故を防ぐ
狭小地・軟弱地盤・床上支保
- 地盤支持が難しい場合、床上支保になるが局部荷重に注意
- 敷板・分散材・梁位置を明確にし、載せてはいけない場所を決める
- 雨天時の沈下リスクを見越して計測頻度を上げる
15. まとめ:仮設支保工は「構造・工程・現場」をつなぐ設計
鉄骨造の仮設支保工は、計算問題ではなく“段取りの構造設計”です。
- 対象範囲を切り出し、工程の中の最悪ケースを拾う
- 支点条件と水平安定(転倒・滑動)を最優先で潰す
- 変形(たわみ・沈下・建入れ)を「測って管理できる形」に落とす
- 図面・計画書は「現場が迷わないアウトプット」にする
この4点が揃うと、事故リスクと手戻りが同時に減り、工程も安定します。仮設は“見えないコスト”になりがちですが、結果的に最も効く品質投資です。

