耐火等級を高めるRC仕上げ材選定のコツ
目次
1. はじめに:なぜ今「耐火等級」が注目されるのか
都市化の進展により、密集した市街地での火災リスクは年々高まっています。これに伴い、建築物の「耐火等級」が安全性・保険評価・入居者信頼に直結する重要な指標として注目されています。
建築基準法では建築物の規模や用途に応じて耐火・準耐火構造の義務が課されており、とくにRC造(鉄筋コンクリート造)では構造体そのものの耐火性は高いものの、仕上げ材の選定次第で最終的な評価が大きく変わるケースも少なくありません。
本記事では、RC構造物における耐火等級向上のための仕上げ材選定のコツを、制度・素材・施工の観点から体系的に解説します。
2. 耐火等級の基礎知識と制度概要
▷ 耐火等級とは?主要な分類と定義
耐火等級とは、火災時に構造部材や仕上げ材が崩壊・変形・有害ガス発生を防ぐ性能を評価する指標です。建築基準法では、次の3区分が一般的です:
- 耐火建築物:火災に60~120分以上耐える構造
- 準耐火建築物:30~60分程度の耐火性能を持つ
- その他(一般建築物):耐火性能の規定なしまたは限定的
▷ 評価基準と告示基準の読み解き方
耐火等級の評価には、国土交通大臣認定(性能評価)または告示仕様のいずれかを用います。
告示基準では、「告示第1359号」などで規定された部位別の構成(厚み・材質など)を満たせば、試験不要で耐火認定が得られます。
3. RC造の耐火性能を左右する仕上げ材の特性
RC構造そのものは不燃材ですが、仕上げ材が不適切だと耐火評価が下がることがあります。主な影響因子は以下の通りです。
▷ 熱伝導率・融点・発煙性などの観点
- 熱伝導率が高い素材:熱が急速に拡散し、周囲の温度上昇を招く
- 融点の低い素材:早期に変形・崩壊し、耐火性能を損なう
- 発煙性の高い素材:避難障害や有毒ガス発生の懸念
▷ コンクリートと仕上げ材の熱応答性
仕上げ材とコンクリートの熱膨張差が大きいと、火災時に剥離や爆裂を引き起こす可能性があり、仕上げ選定時は相性にも配慮が必要です。
▷ 多層構成による耐火性能の強化
不燃層+断熱層+仕上げ層の多層構成にすることで、遮熱性や延焼防止効果が高まります。
4. 部位別:耐火性能向上のための仕上げ材選定例
▷ 壁仕上げ材
- モルタル仕上げ:基本的な不燃材料。厚み・配合により性能差あり
- ALCパネル(軽量気泡コンクリート):断熱・耐火性に優れる
- 耐火石膏ボード:施工性が高く内装にも適用しやすい
▷ 天井仕上げ材
- 吹付けロックウール:優れた耐火性と断熱性。構造体被覆にも使用
- グラスウール断熱天井:軽量で施工性良好、仕上材との組合せが鍵
- 金属製天井パネル(不燃認定品):意匠性と耐火性を両立
▷ 柱・梁・スラブ
- 耐火被覆材(セラミック系):高耐火グレード向け
- 巻き付け耐火ボード:既存構造への追加施工が容易
- 耐火塗料・モルタル:意匠性保持を優先する場合に有効
5. 設計・施工での注意点と事例紹介
▷ 実際の耐火試験結果に基づく仕様選定
実験データが取得された認定仕様を活用することで、確認申請もスムーズに進みやすくなります。特に大臣認定材料は信頼性が高く、設計上の根拠にも有効です。
▷ 不適合事例に学ぶ「やってはいけない」仕上げ
- 断熱材の裏面に可燃材を使用 → 内部発火リスク
- 告示厚さ未満の被覆施工 → 耐火等級不適合
- 現場での仕様逸脱 → 監理者指摘・再施工の原因に
▷ 施工精度が耐火性能に与える影響
耐火性能は設計値だけでなく施工精度にも大きく左右されます。
- 被覆材の未密着部や隙間の充填不良
- 薄塗りによる性能低下
- ボードの固定不良による剥落リスク
6. まとめ:耐火等級向上と仕上げ材選定の最適解
RC造の耐火等級を高めるには、構造体の性能に加えて、仕上げ材の選定・施工精度・制度への理解が不可欠です。
仕上げ材は、コストと性能のバランスを見極めながら、認定仕様や告示基準に基づく正しい設計と確実な施工が求められます。
今後、カーボンニュートラル建材やBIM連携による耐火設計のデジタル化も進んでいく中で、設計者・施工者として押さえるべき知識はますます広範囲になります。
本記事が、より安全で高品質なRC建築の実現に役立つことを願っています。


